化学療法は副作用があまりにもひどいこともあり悪いイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。抗がん剤はどうしても副作用の印象が先に出てくるかもしれません。
ここでは抗がん剤の種類にどのような効果がありどのようなメカニズムかなどを紹介します。抗がん剤の効果について参考にしていただきたいと思います。
目次
抗がん剤と種類
抗がん剤とは
正常な細胞が、何かの原因によってその性質が変わり、異常な繁殖の仕方をしていくのががん細胞です。この繁殖を繰り返すがん細胞を抗がん剤は攻撃していきます。抗がん剤は現在約100種類近くあり、内服用のものと注射のものがあります。静脈を通して点滴や注射によって抗がん剤を入れる場合、腕の血管など細い静脈に点滴の管を通す方法があります。抗がん剤はがん細胞が増えるのを抑えたり、成長を遅らせたり、転移や再発を防いだりする役割を持っています。
種類
抗がん剤の種類、それぞれの特徴にはどのようなものがあるか見てみましょう。
- 代謝拮抗剤:がん細胞の増殖を抑制する効果があります。正常細胞にも反応するため、ある程度の薬物有害反応が出てきます。この薬はがん細胞の分裂時に効果を示すため、個々のがん細胞が分裂するタイミングを見計らい、長時間、持続的に薬を投与します。他の薬と組み合わせることでより効果が上がると言われています。
アルキル化剤:がん細胞のDNAを破壊し、がん細胞のDNAのコピーをさせないようにする薬剤です。元々は、毒ガスの研究から開発された薬です。白血病や悪性リンパ腫などに特に効果があります。
抗がん性抗生物質:土壌に含まれるカビから作られたもので、がん細胞を破壊し、細胞分裂の阻止、DNAの複製を阻止します。
微小管作用薬:細胞分裂に重要な役割を果たす微小管(細胞中にある直径約 25 nm の管状の構造)に作用します。微小管の働きを止めることにより、がん細胞を死滅させる方法です。微小管は神経細胞の働きにも反応するため、手足の痺れと言った神経障害が表れることもあります。
白金製剤:別名プラチナ製剤と呼ばれます。アルキル化剤同様にDNAを破壊、がん細胞のDNAコピーを防ぐ役割があります。また、がん細胞を自滅させる役割もあります。
トポイソメラーゼ阻害剤:DNAコピーに必要な酵素を阻害することによってがん細胞を死滅させます。
7.分子標的薬:がん細胞の特徴を分子や遺伝子レベルで捉え、がん細胞の特定の活動である細胞異常分裂や増殖を抑えます。
がん種類別の抗がん剤の効きやすさ
抗がん剤は全てのがん細胞を効果的に攻撃できるのでしょうか。それは、がんの種類によって効き方は異なり、抗がん剤に対する感受性によって異なります。
薬剤感受性は「よく効く」、「比較的よく効く」、「あまり効かない」、「ほとんど効かない」の4つに分けられます。下記にがんの種類と抗がん剤の感受性をまとめました。
【治癒と延命効果が期待できる】急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、絨毛がん、肺細胞腫瘍
【治癒というより延命効果に期待ができる】多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、慢性骨髄性白血病、骨肉腫、大腸がん、乳がん、卵巣がん、小細胞肺がん、
【効果をあまり期待できない】軟部組織腫瘍、頭頸部がん、食道がん、前立腺がん、胃がん、膀胱がん、子宮がん、非小細胞肺がん、肝臓がん、脳腫瘍、すい臓がん、腎臓がん
【ほとんど効かない】悪性黒色腫、甲状腺がん
抗がん剤が「効く」、「効かない」とは?
がんになると多くの人が医師から抗がん剤治療を提案されます。本や雑誌、ネットなどで「抗がん剤は効かない」、「受けない方がいい」などと医師が話している記事を目にしたことはありませんか?抗がん剤を受けるかどうか迷った時、まず、「何のために抗がん剤治療を受けるか」、治療の目的知っておく必要があるでしょう。ご自身が、がんの完治を目指すのか、術後の再発を防ぐのか、延命を目指すのかによって抗がん剤の位置づけは変わってきます。
抗がん剤治療を受けることによって、その目的をどれくらい達成できそうか。臨床試験のデータに基づいて、主治医に説明してもらうことが大事です。
三大療法の手術のデメリット
もちろん手術で腫瘍を取り除ければ一番良いのですが、それが負担になってしまう方もいます。抗がん剤が治療法として選択される理由として下記のような手術のデメリットがあります。
・合併症などの後遺症のリスク
・手術ミスがあり、手術中の術死などが稀にある
・手術そのものが成功しても、後遺症が残るケースが非常に多い
・切り取った臓器は無くなり臓器不全を伴う
・手術を受ける精神的なストレスも出てくることがあり、結果として免疫力が低下する
・メスを入れることでがん組織を破壊し、手術によってがんが転移する可能性も高い
抗がん剤にはどのような副作用があるのか
抗がん剤治療や放射線療法はがん細胞だけを識別して殺傷するのではなく、正常細胞に対しても同時にダメージを与えます。これらの療法は細胞分裂を活発に行う細胞に対して、より強いダメージを与えるという特徴を利用したものだからです。
例えば生殖細胞、免疫系の元となる骨髄細胞、毛髪細胞、消化管の粘膜細胞などは正常の細胞ながらの増殖の早い細胞のため髪の毛が抜けたり、白血球が減少したりするということが起こります。抗がん剤に多く見受けられる自覚的に深刻な副作用は激しい吐き気と嘔吐です。これは経験した人でなければ分からないほど辛く、「こんなに辛いのであればもう治療は続けたくない」と言って治療を中断、中止することもあります。
抗がん剤がメインの治療になったとき副作用を緩和する方法
免疫療法
がんと免疫のメカニズムは、健康な方を例に挙げると、がん細胞は体の免疫が排除します。しかし免疫が弱っているとがん細胞を排除できなくなり、どんどん進行させていきます。化学療法は免疫力を低下させてしまうというリスクがあるため免疫療法と組み合わせる方法も注目されています。免疫療法では自己の体に備わっている免疫を使って、免疫本来の力を回復させてがんを治療する方法です。化学療法単体だと免疫力を下げますが、副作用を伴わない免疫療法を併用することで、化学療法による副作用を軽減させながら治療をすることが可能になります。
免疫療法はがんになる前から予防としても使用することもできますが、末期のがん患者様にとっては治療におけるストレスの軽減といったQOL(生活の質)の向上の観点から取り入れることも少なくありません。
緩和ケア
緩和ケアという言葉はあまり聞いたことがないかもしれません。緩和ケアとはがん患者様に対して「痛みを感じたらすぐ始めるケア」と推奨されています。具体的には「痛みを緩和することは全て」になるため、医療用麻薬の投与も含まれます。その他では精神的なケアが挙げられます。がんと診断されたとき多くの患者様が絶望感や不安に襲われます。ストレスは相当なものでこれは免疫を下げることに繋がることも明らかになっています。緩和ケアが日本でまだ浸透していない理由の1つはホスピスのように末期がんの患者様が受けるイメージが強い点が挙げられます。欧米では緩和ケアが浸透している国は多く、イギリスでは緩和ケアに対しての医療制度がしっかり整備されています。日本では、がんと診断されて「緩和ケアをしますか」と言われたらそんなにひどいがんなのかと思ってしまうかもしれません。是非その概念を変えてほしいと思います。少しでも痛みを感じたら主治医や看護師に相談して下さい。いろいろな手段や専門家が準備されています。
具体的には、治療中に発生する精神面における絶望感、孤独感、治療による副作用である痛みや吐き気、食欲不振、だるさ、便秘、眠れないなど体の症状、手術後の痛み、再発や転移による痛み、医療費の問題、転居、自宅療養についての不安、生きる意味についての悩み、など様々なことががん患者様には起こります。このような場合に緩和ケアを視野に入れることが推奨されています。
例えば化学療法を受ける際、副作用に耐えられないという精神的な辛さを「この副作用を我慢しなければがんを乗り越えられない」と耐えるのではなく、相談してみることによって、医師からより楽な治療法を提案されることもあります。
さいごに
化学療法は入院せずとも通院によって受けることもでき、日常生活を送りながら治療をしていくこともできます。仕事を続けながら治療をしたい方にとってはメリットのある治療法ですが、いつも医療者がそばにいるわけではないという不安があるかもしれません。薬剤の種類や状態によって気をつけなければいけない点は異なってきますので、どのような症状に注意し、どのような症状が出たらどう対処するのかなど、担当医や看護師にしっかり確認し、治療を進めていきましょう。
医療ライター 吉田あや
得意分野:医療系ライティング、経営者インタビュー記事など。
writer.happy02@gmail.com