大腸がんは日本において、罹患率の高いがんとして知られていますが、早期発見できれば、完治する確率も高いがんとしても知られています。近年、日本における患者数の増加が多い事から、生活環境の変化に着眼し、食の欧米化、肉食化、脂肪摂取量の増加、メタボリックシンドロームの増加などが大腸がんの発生に関連しているのではと考えられてきました。そして、高齢になるほど大腸がんの発生率は増えるため、高齢化が進んだ日本では大腸がんが多いのです。しかし、患者数は増えて居ますが、死亡者数は近年横ばいになっており、治療効果が上がってきている事が解ります。
目次
大腸がんについて
大腸がんは、盲腸・結腸・直腸・肛門で構成される大腸に出来るがんです。早期では自覚症状が無く、また便秘と下痢のくりかえしや血便といった痔などと似た症状になることから症状を軽視してしまい、発見が遅くなる事も少なくありません。
大腸がんは、がんが大腸組織のどの深さまで発育しているのか、リンパ節への転移の有無、他の臓器への転移の有無で病期をステージ分類しており、それぞれの進行度に合わせて治療法を選択します。
大腸がん情報サイトhttp://www.daichougan.info/discover/stage.html
大腸がんの症状
大腸がんは、早期の状態では症状が出ないことが多く、偶然見つかる場合を除き、発見が遅れる事が多いです。
肛門付近に良性または悪性のポリープができたときは、排便時に血液が混ざった便が出ることがありますが、ほとんどの場合は「潜血」といって、見た目では解らない出血になる事が多いです。
また、遺伝的な要因もあり、血縁者の中に大腸ポリープや大腸がんの患者様がいる場合には、定期的に検診をすると良いでしょう。
発生部位に関わらず、大腸がんに共通する初期症状は以下のとおりです。
・排便の変化
血便(血液が混じった便)が出る
下血(げけつ:肛門からの出血)が起きる
便が細くなる
下痢と便秘を繰り返す
便が残っている感じがする
・お腹の変化
お腹が張っていると感じる
腹痛が起きる
お腹にしこりがある
・その他の変化
貧血が起きる
嘔吐(おうと)する
急に体重が落ちている
しかし、他の病気でも似たような症状が出ますので、大腸がん特有の症状というわけではありません。
大腸がん末期になると、がん性疼痛や消化管症状栄養状態の悪化、消耗による体重減少などがみられます。多臓器への転移ではさまざまな症状が考えられます。これら症状に対しては緩和療法などが必要になります。
大腸がんのステージと5年生存率
大腸がんの進行度を示すステージは、大腸の中でがん細胞がどこまで深部まで達しているか、リンパ節への転移があるか、他の臓器への遠隔転移があるか、というところが診断のポイントになります。
部位別5年相対生存率のグラフを男女別に掲載しています。
結腸・直腸・大腸ともに、約70%の生存率がある事が解ります。
全部位の平均よりも、やや高めです。
国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/
大腸がんの治療法について
内視鏡治療
内視鏡を使いがんを内側から取り除く方法で、がんを直接見る事が出来ます。また病変部分を切除しその組織について検査を実施する事が出来る為、精密な診断が出来ます。
ごく初期のがんであるステージ0期やⅠ期では、この方法で取り除くことが出来ます。
内視鏡治療は、患者様への負担も少ない治療法です。
手術療法
内視鏡で取りきれない場合は手術でがんを切除します。その時に、周辺のリンパ節や他の臓器に転移がある場合は、なるべく一緒に取り除きます。
結腸がんの場合は、がんが見つかった場所の両側10cmのところで切除し残った結腸を縫い合わせます。排便や排尿などの機能障害はほとんどありません。
直腸がんは、骨盤の奥にあり、膀胱、生殖器、泌尿器など、日常生活に重要な臓器が周辺にあるので、それらをコントロールする骨盤内の自立神経を温存することを目標に手術を行います。直腸がんが肛門近くや肛門にできたがんの場合、手術で肛門を切除しなければならない場合があります。
また、肛門から離れた結腸がんであっても、腸閉塞を起こしている場合などには人工肛門が必要となる場合があります
放射線治療
直腸がんでは、骨盤内からの再発の防止、手術前のがんの大きさを縮小する、肛門を温存する事などを目的として行う「補助放射線治療」と、切除が難しい骨盤内のがんによる痛みなどの症状緩和を目的で行う「緩和的放射線治療」があります。
薬物療法
がんの薬物療法は、抗がん剤を使用した治療方法です。
抗がん剤は、DNA合成阻害、細胞分裂阻害、DNA損傷、代謝拮抗、栄養阻害などの作用があり、がん細胞の発育を抑える事や死滅させることが出来ます。
手術で取りきれなかった微小のがんがあると想定される場合には、手術後に抗がん剤を投与する事で、再発防止を目指します。
手術が出来ない患者様や、再発し切除不可能な大腸がんの患者様に対しては、がんが進行するスピードを抑え延命する事を目的に抗がん剤治療が行われます。
他の臓器に転移している場合も、大腸がんとして治療を行います。
切除不能な大腸がんに対する化学療法では、いくつかの抗がん剤を組み合わせた治療を行います。数種類の抗がん剤を併用する事で、使用中の抗がん剤で副作用が強くなった時や、がん細胞が大きくなったのが確認された場合は、使用を中止し、別の抗がん剤に切り替えます。
抗がん剤は正常な細胞にも作用するものが多く、なんらかの副作用が起こる事が多いです。
副作用を軽減するような薬の開発が進んでおり、特に吐き気止めについては、抗がん剤との併用で効果を上げています。
副作用が著しい場合には治療薬を変更することや休止や中断することも出来るので、治療中でも医師、薬剤師とよく相談しましょう。
主な抗がん剤の副作用
- 吐き気・嘔吐・下痢・食欲不振
- 倦怠感
- 筋肉や関節の痛み
- 脱水症状
- 髪が抜け落ちる
- 動悸や息切れ
- 骨髄毒性(白血球、赤血球、血小板の減少)
特に骨髄毒性は、白血球の減少により肺炎や敗血症などの感染症を起こし、時に命を落とすこともあるため、抗がん剤の副作用の中でも特に注意すべきものです。
大腸がんの免疫療法
手術療法・放射線療法・薬物療法の3大治療法に加え、第4の治療法として注目されているのが、免疫療法です。
抗がん剤と同様に、全身療法でありながら、がん細胞にのみ作用し副作用が比較的少なく患者様に負担の少ない治療法です。
免疫とは、体の中に侵入した異物を排除する機能で、主に免疫細胞群と言われる白血球がその役目を担っています。特に腸菅内には身体全体の約70%にあたる免疫細胞が存在すると言われ、腸管内の健康保持を行っています。
免疫療法は患者様自身の免疫力を利用した治療法なので、体力があり免疫の働きも衰えていない病気の早い段階で使うと、より高い効果をあげることも知られています。
手術・抗がん剤・放射線といった従来の治療と組み合わせて同時に行うと、それぞれの効果をさらに発揮する場合もあります。
特に抗がん剤治療においては、副作用として骨髄毒性があり、免疫細胞にも作用してしまう事があります。結果として免疫力の低下から敗血症や肺炎といった致命的な病気の要因になる場合もあるため、免疫療法を併用することで副作用を軽減し抗がん剤治療を途中で中止することなく進めることができるのです。
大腸の内膜の細胞は、他の細胞に比べて細胞が生まれ変わるサイクルが早い為に、がん化する確率が高いと言われており、そこには免疫機能が深くかかわっている事が解ってきました。人間の細胞は日々生まれ変わり、新しい細胞に生まれ変わっていますが、その細胞が生まれ変わるタイミングでなんらかの原因によりがん細胞が出現し、その数、一日で4000個とも言われています。
通常は、自然に存在する免疫機能により、がん細胞を破壊して増殖しないようになっていますが、免疫機能が正常に働かないと、がん細胞が増殖を始めてしまうのです。
そのため、免疫機能を正常に保つ事は、がんの予防にもつながるのです。
まとめ
大腸がんは、罹患率の高いがんでありますが、早期発見により完治する事も可能ながんです。
がん治療は現在「免疫療法」との併用で、治療効果を高めたり、がん細胞の増殖を抑えたりする効果が注目されており、今後のがん治療の主役になるのでは、と期待されています。
大腸がんの検診を毎年受診する事で、早期発見に繋がりますので、是非とも受診するようにしましょう。
国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html
大腸がん情報サイト
リンフォテック
http://www.lymphotec.co.jp/ryouhou/
岩崎どど(いわさき・どど)
医療ライター
臨床検査技師
医療の現場での経験を生かして、
がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。
HP 「どどの家」https://dodoiwasaki.com/

医療ライター・臨床検査技師。
医療の現場での経験を生かして、がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。