肝臓は機能の低下があっても滅多に症状が現れない、「沈黙の臓器」と言われています。
体内において数多くの機能をこなしている肝臓が正常に働かなくなると、私たちは生命を維持していくことができません。
それ位重要な臓器なのです。
肝臓はまた非常に再生能力が高い為、症状が出てくる頃には、病状が深刻なものになっている事が多い事も特徴のひとつです。
そのような事をふまえて、肝臓がんのステージ分類と生存率についてご紹介します。
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肝臓のはたらき
肝臓は、体内にある臓器で一番大きく、成人では800gから1200gほどの大きさです。
肝臓の中では、有害物質の解毒を行い、脂肪の消化を行う胆汁の生成を行っています。
国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/data/public/cancer/liver/files/liver_fig01.png
肝臓は再生する能力が非常に高く、機能できなくなった細胞の代わりに次々と新しい細胞がつくられています。
再生する間に、他の肝細胞がその役割を補って働く機能も持っていて、
仮に、半分以上の肝細胞が機能しなくなっても、他の肝細胞が補うという機能があるのです。
脳や心臓は1本の動脈で供給される血液から、酸素や栄養などを受け取っていますので、
その血管が詰まったり壊れたりしてしまうと、細胞は機能が低下または停止してしまいます。
しかし、肝臓には肝臓独自の門脈という血管があり、万が一、肝臓への動脈が詰まる事があったり、
壊れたりしても、酸素や栄養が不足する事がありません。
生命維持に非常に重要な役割を果たしている臓器なので、
ダメージを受けても影響が出ないように動脈と門脈の二重支配を受けている構造になっており、
それゆえ症状として表に現れにくいという性質があるのです。
肝機能が低下して黄疸などの症状が表に出てくるときは、肝細胞の殆どがダメージを受けている時です。
自覚症状がないままに少しずつ静かに症状が進み、気が付いた時には重症化しているのが肝臓なのです。
肝臓がんとステージ分類
肝臓がんは、肝細胞がんと他臓器の転移で起こる転移性肝がんがあります。
また肝臓の中の胆管ががん化したものは、肝内胆管がんと呼ばれ区別されています。
こちらのページでご紹介している肝臓がんは、肝細胞がんをさしています。
肝臓がんの病期(ステージ分類)は、肝臓の中にある腫瘍の数や大きさ血管や胆管に広がって居ないか、
他臓器への転移があるかどうかなどの基準で決められています。
病期の分類にはいくつかの種類があり、多くの医師は、日本の「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約(日本肝癌研究会編)」(表1)、
もしくは、国際的に使われている「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」(表2)を用いて説明をしている施設が多いです
。分類法によって、同じステージでも内容が異なることもあるため、注意が必要です。
ステージ分類を決める事で、治療法の選択の目安になるのです。
臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約(日本肝癌研究会編)
国立がん研究センター がん情報サービスhttps://ganjoho.jp/public/cancer/liver/treatment.html
TNM悪性腫瘍の分類(UICC)
国立がん研究センター がん情報サービスhttps://ganjoho.jp/public/cancer/liver/treatment.html
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肝臓がんの生存率
肝臓がんを死亡原因別でみると、男性では4位に入っています。男女合計でも5位と、患者数も多く死亡数も多いがんになっています。
2016年の死亡数の多い順
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1位 |
2位 |
3位 |
4位 |
5位 |
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男性 |
肺 |
胃 |
大腸 |
肝臓 |
膵臓 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸7位 |
女性 |
大腸 |
肺 |
膵臓 |
胃 |
乳房 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸2位、直腸9位 |
男女計 |
肺 |
大腸 |
胃 |
膵臓 |
肝臓 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸7位 |
元データ:人口動態統計によるがん死亡データ(エクセルのnumberシートを参照)
国立がん研究センター がん情報サービスhttps://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
肝臓がんの5年生存率は下記の表のようになっています。他のがんの生存率に比べて、低い値になっており、膵臓・胆管、胆嚢がんに次いで肝臓がんは予後の悪いがんと言えるでしょう。
国立がん研究センター がん情報サービスhttps://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
肝臓がんのステージ別の生存率は下記の表のようになります。
がんのきほん https://www.gan-info.com/307.8.html
肝臓がんの原因
脂肪肝
脂肪肝とは、肝臓に脂肪が蓄積されている状態の事です。
もともと肝臓ではエネルギー源として脂肪を作り、肝細胞の中にためています。
しかし作られた脂肪に比べて使う脂肪が少ないと、肝細胞に脂肪が蓄積されてしまいます。
このような状態で、全肝細胞の30%以上が脂肪化している状態を『脂肪肝』といいます。
肥満と診断された人の20~30%に脂肪肝がみられます。
肝硬変
B型やC型肝炎ウイルス感染、アルコール、非アルコール性脂肪性肝炎などによって肝臓にダメージが与えられます。
そのダメージを修復するときにできる「線維(コラーゲン)」というタンパク質が増加してやがて肝臓全体がごつごつして岩のように硬くなり、
大きさも小さくなって きます。このような状態が続くと、肝細胞が刺激を受け続けて、がん化してしまうと考えられています。
ウイルス感染
肝細胞がんの発生する主な要因は、B型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスが原因の慢性肝炎です。
肝炎ウイルスからの攻撃で肝細胞の炎症と再生が長期にわたって繰り返され、
それに伴い遺伝子の突然変異が積み重なり、がんになると考えられています。
ウイルス性肝炎は放置すると慢性化し長い年月をかけて肝硬変を経て肝がんへと変わって行きます。
肝炎での段階で治療をすることで、肝がんの予防になるのです。
肝炎ウイルスの感染については、血液検査で知ることが出来ます。
その他の要因
多量飲酒、喫煙、肥満、糖尿病、男性であることなどが知られています。
がんと免疫
近年、がんの発生機序が解明されてきました。健康な人の身体の中でも、実は毎日4,000~6,000個もの細胞が異常化し、
「がん」ができていると考えられているのです。しかしこのがんのほとんどは、
大きながんのかたまりへと成長することなく死んでいきます。
これは、体内に自然に存在する免疫機能が働き、小さながんのうちに細胞を攻撃し殺しているからです。
しかし免疫力は、年齢を重ねていくにしたがって少しずつ衰えていきます。
免疫力よりもがん細胞の力が勝ったときに、がんは一気に大きながんへと変化するのです。
このようにがんと免疫の関係は非常に密接なのです。
この免疫の力を利用した、がんワクチンの開発と実用が開始されています。
本来持っている免疫力を増強させるような作用があり、がんの予防だけでなく、再発防止にも利用されています。
また、がんの三大治療といわれる、手術療法・放射線療法・抗がん剤療法などとの併用でも効果を上げているのが、免疫療法なのです。
がんの予防
肝臓がんの予防としての検診などは特にない事や、早期発見が難しいがんである為、
日常的にがんを予防する健康習慣を持つ事が大切です。
がん研究振興財団より発表されているがんを防ぐための新12か条を紹介します。
「がんを防ぐための新12か条」
1.たばこは吸わない
2.他人のたばこの煙をできるだけ避ける
3.お酒はほどほどに
4.バランスのとれた食生活を
5.塩辛い食品は控えめに
6.野菜や果物は不足にならないように
7.適度に運動
8.適切な体重維持
9.ウイルスや細菌の感染予防と治療
10.定期的ながん検診を
11.身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
12.正しいがん情報でがんを知ることから
詳しい説明はがん研究振興財団のホームページを参照してください。
http://www.fpcr.or.jp/pamphlet.html
まとめ
肝臓がんは、早期発見が難しく、予後の悪いがんです。しかし、ウイルス性肝炎にかからない、
脂肪肝にならない事でリスクを低くする事は可能です。健康的な食生活や軽い運動といった、日常の中でもがん予防は出来るのです。
岩崎どど(イワサキ・ドド)
医療ライター・臨床検査技師。
総合病院の臨床検査科勤務時代には、病棟を回り心電図検査や採血などをしておりました。
患者様との会話の中から、病気の苦しみや様々な悩みなどを見聞きした経験を生かし、
がんに関する記事を寄稿しております。また、がん患者を持つ家族としての立場から、
「今」知りたい最新のがん治療について特にお伝えしていきます。
HP 「どどの家」https://dodoiwasaki.com/
国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html
がんのきほん
https://www.gan-info.com/307.8.html
日本対がん協会
がんと免疫
http://www.meneki-up.jp/cancer/contents03.html

医療ライター・臨床検査技師。
医療の現場での経験を生かして、がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。