がんの骨転移が起こる状態は、がんが進行していると考えられますが、早期発見し治療を早く開始する事で、共存共生が望めるものなのです。
他の内臓への転移と違い骨転移が原因で命を落とすような事は有りません。
大切なのは骨転移を見逃さず、適切に治療を行う事なのです。
しかしながら骨転移の検査を積極的に行わない場合もありますので、是非とも「骨転移」と闘う知識を得て、まさかの時に備えましょう。
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目次
骨転移とは
がんが進行し癌が大きくなると、骨転移が起こる事があります。
血流に乗って骨に到達したがん細胞が定着して増殖を始めた状態が、がんの骨転移です。
通常は進行がんで見られるものです。骨転移がある状態はがんが全身に回っている状態だと言えるでしょう。
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骨転移しやすいがん
乳がん、肺がん、前立腺がん、多発性骨髄腫は、骨転移しやすいがんです。
これらのがんにおいては、約30パーセントに骨転移がみられると言われています。
特に乳がんは、罹患してから10年後に骨転移するような事があり、特に骨転移への注意を払いたいがんです。
また、患者数では肺がんの骨転移が多く、こちらも注意が必要です。
そのため、これらのがんになった場合は早めに骨転移の可能性について、相談すると良いでしょう。
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骨転移の検査
(1)骨シンチグラフィ
骨の細胞は常に破壊と再生をくりかえし、新しい骨組織に置き換わっています。
骨シンチグラフィー検査はこの骨造成を反映する検査で、がんが骨へ転移しているかどうかを検出するのに頻繁に利用されます。
骨転移を調べる事はがんの治療を進めていくうえで重要な情報となります。それ以外にも骨折や骨髄炎、関節炎の診断に利用されることもあります。
(2)PET,PET‒CT
PET検査とは「陽電子放射断層撮影」という意味で、ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(Positron Emission Tomography)の略です。
通常、がんは、実際に腫瘍ができたり、体に変化が起きてから見つかることが多く、がん細胞の成長がある程度進んでからでないと発見しにくい病気でもあります。
早期発見のため、特殊な検査薬で「がん細胞に目印をつける」というのがPET検査の特徴です。
PET検査では、検査薬を点滴で人体に投与することで、全身の細胞のうち、がん細胞だけに目印をつけることができます。
専用の装置で体を撮影することで、 がん細胞だけを見つけることができます。
PET検査により、従来の検査にくらべて、かなり小さな早期がん細胞まで発見することが可能になりました。
一方,骨転移のタイプによっては,骨シンチグラフィのほうが優れる場合があります。
(3)骨X線写真
初期には診断が難しい場合があります。X線像としては、3つに分類されます。
骨を溶かして弱くしてしまう「溶骨型」、正常の骨を破壊しているのですが、逆に硬くなってしまう「造骨型」、この2つの状態が入り混じる「混合型」の3つに分類されます。
溶骨型が全体の80%を占めます。乳がんの骨転移は,溶骨性骨転移が多いのですが,造骨性骨転移の形で現れることもあります。
骨X線写真は,骨転移を確実に診断しなければならないときや,骨折の危険性を診断するときに役に立ちます。
(4)MRI
骨転移の場所や大きさを診断することができます。骨シンチグラフィよりも小さな転移を診断することもできます。
(5)血液検査
ICTPは、骨基質の主要構成蛋白であるⅠ型コラーゲンの分解産物です。
骨転移がある場合は、骨に含まれるコラーゲンが溶け出して血液中に放出される為、高値を示す事があります。
その他,血中のカルシウム値やアルカリフォスファターゼなども高い値を示すことがあります。
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骨転移の症状
骨転移の場合、注意すべきなのは主に痛み・骨折・麻痺の3つです。
痛み
がんが骨転移を起こすと、痛みが現われます。
初めは違和感程度にしか感じない痛みも、徐々に増して行き、動作毎に痛みが現われたり、また安静時にも痛みが出て来るようになってきます。
大切なのはこの痛みを見逃さず早めに処置を行う事です。本来、痛みは人間のからだを守る防御システムの一つです。
痛みが出てきたときには無理にからだを動かそうとせず、痛みの出ないよう静かにしておくのが原則です。
しかし安静にしているにもかかわらず、痛みが増してくる場合は要注意です。
また、がんの罹患歴のある方で、身体に痛みが出てきた方は、再発による骨転移の恐れもありますので、整形外科で相談の上、主治医にも連絡を取ると良いでしょう。
痛みの段階で治療を開始すれば、命に別状がないのが骨転移なのです。
骨折
骨転移の痛みを我慢して放置してしまうと、がん細胞の増殖により骨折を起こすことがあります。
この場合の骨折は、大きな力を加えた訳ではなく、日常のふとした力で骨折していまうという病的骨折になります。
この場合、ギプスなどによる固定を行い骨の形成を待つような自然治癒は難しく、
放射線治療などで、骨に増殖するがん細胞を減らしたり、殺さないと骨の形成は難しいです。
骨折してしまうと治療が難しいため、痛みの段階で気が付く事が重要です。
麻痺
骨転移で最も危惧して貰いたいのが、脊髄損傷による麻痺です。
脊髄への骨転移により神経が圧迫され、下半身麻痺などの重篤な症状を起こすのです。
このような麻痺が現われる前には、痛みが出現しているはずなので、「ただの腰痛だ」などの自己判断は禁物です。
がんにかかった事のある方であれば、骨転移を疑っていきましょう。
麻痺の始まりは、足のもつれや踏ん張りがきかないなどと表現される状態で現れ、多くの場合しびれ感を伴います。
そして立ち上がる事が出来ない様な、強い麻痺症状が出た時は、早急に治療を開始しなければ、麻痺が残ってしまうのです。
また脊髄のどの部分に骨転移が起こったかによっても、障害の位置は変わってきます。
首の骨(頸椎)が損傷した場合は、上半身にも麻痺が残ります。
麻痺の症状が出てからでは、予防は難しいのですが、痛みの段階で骨転移を確認出来ていれば、
防ぐことが出来る為、がん患者様であれば、骨転移に関しては少し過剰な位、敏感になる事で、早期発見を可能にするのです。
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骨転移の治療
骨転移であっても、治療の基本はがん治療です。
がんの増殖の勢いを弱める為に、抗がん剤による治療を行います。
場合によっては骨転移している箇所に放射線療法を行う事もあります。
がんの増殖を弱める治療と並行して、近年では、骨転移に対して破骨細胞という特殊な細胞の働きを抑えたり、
新たに作られるのを防いだりする薬剤を併用する事が増えてきました。
この薬剤により、がん細胞が骨を壊して行くのを抑える事が出来ます。
がんの増殖を抑え、骨が壊れるのを防ぎ骨転移を効果的に治療して行くのです。
ただし、この破骨細胞を抑制する薬は、歯にも影響を与えます。
歯科治療中や歯周病などがある場合、顎骨壊死という副作用をもたらす事もあるのです。
骨転移を危惧されるような患者様は、口腔内のケアを積極的に受けておくと良いでしょう。
骨転移と免疫療法
免疫療法は、抗がん剤療法と同様、全身療法のひとつです。
骨転移のようにがんが全身に転移しているような患者様に有効です。
がん細胞を攻撃するリンパ球を体外で活性化して体内に戻す方法と、体内の免疫細胞を活性化する方法があります。
抗がん剤のように正常な細胞まで攻撃することがない為、比較的副作用も少なく、患者様にとって負担の少ない治療法です。
抗がん剤治療の副作用で免疫力が落ちている時は、免疫療法を併用することによって感染症のリスクを抑えることが出来ます。
術後の再発防止にも非常に効果的で他の治療法との組み合わせる事で治療効果を発揮します。がんが増殖するのを食い止める為には、有効な治療法です。
まとめ
がんの骨転移で最も重要な事は、麻痺を起さない事です。
それには、日々身体の痛みに敏感になり、少し神経質な位、骨転移の可能性を意識する事です。
骨転移が起こっている様な状態は、他の臓器への転移も起きている場合があり、どうしてもそちらの治療に意識が向きがちです。
そんな時に「骨転移は大丈夫ですか?」「最近腰が痛くて、骨転移ではないですよね?」といった患者様本人からの申し出がとても有効なのです。
念の為検査を実施してもらい、骨転移を初期の段階で見つける事が出来れば、悪化することなくQOLを保ったまま療養生活を送る事が出来るのです。
知識を力に変えて、がんと闘いましょう。
岩崎どど(イワサキ・ドド)
医療ライター・臨床検査技師。
総合病院の臨床検査科勤務時代には、病棟を回り心電図検査や採血などをしておりました。
患者様との会話の中から、病気の苦しみや様々な悩みなどを見聞きした経験を生かし、
がんに関する記事を寄稿しております。また、がん患者を持つ家族としての立場から、
「今」知りたい最新のがん治療について特にお伝えしていきます。
HP 「どどの家」https://dodoiwasaki.com/
国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html
がんのクリニック
http://blog.gannoclinic.jp/92/
がんNABI
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cancernavi/series/bone_meta/
骨転移診療ガイドライン
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/bone_metastasis/bone_metastasis.pdf

医療ライター・臨床検査技師。
医療の現場での経験を生かして、がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。