初期では、自覚症状が少ないのが「癌」という病気です。
癌は、知らない間に増殖し、気が付いた時には様々な症状が出てきますが、ステージ分類が大きな数字になってくると、「痛み」と直面します。癌の痛みは様々な要因で出てきます。
そして、「痛み」は当の患者様本人にしか解らないものです。
どのあたりが、どのように痛いのかを医師や医療スタッフに伝えられるようにしておきましょう。
治療への大切な情報源になるからです。
まずは痛みについての理解を深めましょう。
目次
癌の痛み
痛みは、急性痛と慢性痛に分かれます。
急性痛の場合は、痛み自体が警告反応であり、また痛みが経過を示すパラメータの一つ(診断価値)になるため、診断が確定するまではできるかぎり痛みどめなどで症状を抑えない方が望ましいと言われていました。
しかし、近年においては、診断の発達とともに、診断や治療の妨げとなる疼痛を除去することで最大限の効果を期待する考えが浸透してきています。
慢性痛自体が、患者の様々な障害となりうるので、疼痛の制御が重要となります。
癌の痛みの原因
体性痛
癌(がん)による痛みは主に3つあります。
3つの中で筋肉や関節などへ刺激を受けるのが体性痛です。
体性痛で発生する部位は主に皮膚や骨・筋肉・結合部分などの組織になります。
たたく・刺す・切るなどのような痛みを覚えるのが特徴的です。
筋肉痛のようなにぶい痛みではなく、突然やってくる痛みです。
また、痛みが持続するため長く続くほど悪化する傾向があります。
できるだけ早めに病院へ行かなければなりません。うずくような痛みも体性痛の特徴です。
深いところにある体性組織への痛みがある場合は、癌細胞が潜んでいる場所から離れているケースがほとんどになります。
しっかりどのような痛みなのか医師に説明したほうがよいでしょう。
内臓痛
内臓痛は字の通りに内臓に異常が現れ痛みを発症させています。
この時体内の臓器が無理やり伸び縮みしていることが考えられていて、本来の形から変形して起こる痛みを腹痛と訴えているのです。
腹痛の症状を言葉で表す時に、”キリキリ”など表現する方が多いと思いますが、内臓痛から現れる痛みは確かにキリキリとうずく痛みが特徴的です。
腸管内に出来た癌が増殖したことにより腸閉塞になった場合に出る痛みは内臓痛です。
神経障害性疼痛
神経障害性疼痛は、神経が傷つくことによってその支配領域の感覚に異常が起こる病気です。
「触っただけで痛い」、「砂利を踏んでいるようだ」など、通常とは異なる感覚が現れます。
難治性でその原因や病態はわかっていませんが、中枢機能に解明の糸口があるのではないかと注目され始めています。
痛みの原因
痛みの性質によって原因はバラバラです。癌の痛みは体をむしばんでいる証拠になりますが、痛みによって身体的苦痛だけでなく、精神的、社会的にも悪影響をおよぼします。
なぜ、癌性疼痛は起きるのでしょうか。主な理由は全部で5つです。このように、さまざまな原因があることを把握しておきましょう。
主に、癌が増殖する事によって起こる痛みです。
・神経因性疼痛
・骨転移痛
・消化管閉塞(イレウス)
・腹部膨満
・炎症
癌の痛み
癌に伴って起きる痛み(癌性疼痛)には大きく分けて3つの種類があります。
・癌自体が起こす痛み
例えば骨への転移や臓器への浸潤により生じる痛みなどです。
・癌の治療に伴う痛み
手術の痛みのほか、抗癌剤には末梢神経に痛みを起こすものがありますし、放射線治療でも痛みを
伴う場合があります。放射線自体は痛みや熱さは感じなくても、放射線を照射した部位にしばらくし
てから痛みが出てくることがあります。
・全身衰弱に伴って生じる痛み
寝たきりのための筋肉や関節などの痛み、褥瘡の痛み、免疫力低下で起こしやすい帯状疱疹後の神経
痛などがこれに当たります。
癌の痛みの治療
痛みは身体へのSOSのサインなので、体内に異常が起きた部位、そしてそれに関連する部位に痛みが出現し、異変を知らせてくれるという役割があります。
癌の痛みは、既に原因が解っている痛みの為、「不要な痛み」という事になります。
痛みに耐えて過ごすのは、体力の消耗に繋がり、病気を悪化させます。
痛みどめの種類や使い方は日々進化していますので、どんな痛みも我慢せずに医師に相談しましょう。
癌の痛みについて、次の表の様な目標が立てられています。
第一目標
睡眠を邪魔しない
第二目標
昼間の安静を邪魔しない
第三目標
日常生活を邪魔しない
睡眠は、私たち健康な人間でも体調を整え、体力を保つ為に重要なもので、
癌と戦う患者様にとっては、より一層大切なものになります。
痛みの為に夜も眠れない、という状態では、疲労が蓄積する一方で、充分な治療効果も得られません。
闘病中の患者様においては、夜間だけでなく、昼間の安静を保つ事で回復を早める効果が期待できます。
そして、日常生活で必要な動作を妨げる事の無い程に、痛みをコントロール出来たのであれば、社会復帰も望めるのです。
痛みの治療
モルヒネについて
オピオイド鎮痛薬が使われます。オピオイド鎮痛薬とは、神経系の司令塔の部分である脳や脊髄に作用して痛みを抑える薬の総称です。
医療用麻薬とも呼ばれ、法律で医療用に使用が許可されている麻薬です。痛みの治療を目的に適切に使用することが重要です。代表的なものにモルヒネがあります。
モルヒネは、中毒性のある薬剤と言われてきましたが、医師の指示で癌患者様の痛みどめ目的として適切に使用された場合、依存症状が生じることはほとんどないと報告されています。また、痛みが少なくなってきたら、薬の量を減らしていく事ができ、そして痛みがなくなれば投薬も終了します。薬は症状に合わせて止める事が可能なのです。
WHO方式癌疼痛治療法
WHO方式の三段階除痛(鎮痛)ラダーを使用するにあたり、以下のような鎮痛薬使用の基本を守っています。
①経口投与を基本とする
②時刻を決めて規則正しく
③ラダーにそって効力の順に
④患者ごとの個別の量で
⑤その上で細かい配慮を
日本ペインクリニック学会 https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keywho.html
注目が集まる新しい治療法・免疫療法
抗癌剤を用いない全身療法のひとつに、免疫療法があります。
現在癌の治療法としては、外科手術、化学療法、放射線療法の3つが一般的です。
こうした療法は早期の癌には効果を発揮しますが、進行癌においては必ずしも有効ではないと考えている医師も多くいます。
現在すでに確立している癌の三大療法に続く第四の治療法ともいわれています。
免疫療法は、その他の療法との併用でも効果を発揮しており、今後更に注目されて行く治療法のひとつです。
進行癌、末期癌と診断された場合は、原発巣だけでなく転移している可能性が高い事が多くなります。
そうなると手術療法や放射線療法などの局所療法では、転移した先までの治療が難しく、また、目にみえない小さな癌を取り残し、再発してしまう恐れもあります。
転移癌でも、限局されたものの場合はそこだけ手術で取り除く事は可能ですが、手術が難しい場所や、転移が複数みられる場合には、局所療法では不十分で、全身療法との併用を選択して行きます。
癌における免疫療法は 、免疫機能における異物排除機能や免疫記憶機能の中のより特異的な応答を誘導させることにより、癌細胞の増殖を抑制したり、破壊したりする方法です。
癌細胞が増殖していくと、全身の状態が悪くなり、免疫力の低下を起こす事があります。免疫力の低下は帯状疱疹や褥瘡などの痛みを悪化させますので、免疫療法を併用する事で、症状の軽減が期待で来ます。
広い意味での健康食品の摂取(漢方薬など)から、モノクローナル抗体やサイトカイン(免疫担当細胞の情報物質)の投与、細胞の移入療法、免疫強化療法など多岐にわたる方法から、より効果的な方法が模索されています。
まとめ
癌の痛みの原因は様々ですが、痛みを取る治療はあらゆる痛みに対応することができます。
痛みの治療には、国際的な指針があり、安全かつ効果的に痛みを取り除く方法が日々研究され、実用化しています。
癌の痛みは我慢しなくても良い痛みです。医師の指示を守り、正しく鎮痛剤を利用し快適な日々をお過ごし下さい。
がんサポート
https://gansupport.jp/article/treatment/palliative/13094.html
がんのつらさ
http://www.shionogi.co.jp/tsurasa/treatment/who/
日本ペインクリニック学会
https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keywho.html
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2010/chapter02/02_03_03.php

医療ライター・臨床検査技師。
医療の現場での経験を生かして、がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。