胃がんは、日本において患者数の多いがんであり、がんで亡くなった人の数では、2016年時点で男性は第2位、女性は第4位となっています。
罹患率はでみると、2014年現在では男性1位、女性3位となっており、割合としては患者数に比べて死亡数は少なくなっています。
- 2016年の死亡数が多い部位は順に
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1位 |
2位 |
3位 |
4位 |
5位 |
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男性 |
肺 |
胃 |
大腸 |
肝臓 |
膵臓 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸7位 |
女性 |
大腸 |
肺 |
膵臓 |
胃 |
乳房 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸2位、直腸9位 |
男女計 |
肺 |
大腸 |
胃 |
膵臓 |
肝臓 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸7位 |
- 2014年の罹患数(全国合計値)が多い部位は順に
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1位 |
2位 |
3位 |
4位 |
5位 |
|
男性 |
胃 |
肺 |
大腸 |
前立腺 |
肝臓 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸5位 |
女性 |
乳房 |
大腸 |
胃 |
肺 |
子宮 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸2位、直腸7位 |
男女計 |
大腸 |
胃 |
肺 |
乳房 |
前立腺 |
大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸6位 |
元データ:地域がん登録全国合計によるがん罹患データ (エクセルのnumberシートを参照)
国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
目次
胃について
胃は、口から食道を通って入ってきた食物が蓄えられる袋のような臓器です。空腹のときは細長くしぼんでいますが、満腹時には大きくふくらんで食べ物や飲み物を1.5~2.5リットルも貯めこむことができます。
胃は、摂取した食物を一時的に蓄える機能があり、そこで消化の第一段階が行われます。大量の胃酸を分泌し、殺菌や消化を行います。また粘液を分泌する事で、胃壁を保護し、消化をスムーズになるように助けています。胃は収縮運動を行い食物と胃液とよく混ぜ合わせて、食物をどろどろの状態(粥状)にしています。どろどろの状態になった食物は、ゆっくりと十二指腸へ送り出し、更に消化を続けます。
国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html
胃がんについて
胃がんは、胃の内側にある粘膜上皮が何らかの原因でがん細胞になり、無秩序に増殖して行き、がんになります。がんが出来ると、そこから増殖して胃の壁の中に入り込んで行き、胃の外側の漿膜(しょうまく)を突き破り、近くにある大腸や膵臓などに広がる事もあります。
胃がんは、その広がり方やがんの大きさ、リンパ節への転移の有無などから臨床病期(ステージ)が決められます。
国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html
ステージ分類とは、進行の程度を表す言葉です。
がんの深さが粘膜および粘膜下層までのものを「早期胃がん」、深さが粘膜下層を越えて固有筋層より深くに及ぶものを「進行胃がん」といいます。
ステージ別の生存率は下記の表のようになっています。
ステージ分類別 胃がんの5年生存率と10年生存率
ステージ |
5年生存率 |
10年生存率 |
Ⅰ期 |
97.2% |
95.1% |
Ⅱ期 |
65.7% |
62.7% |
Ⅲ期 |
47.1% |
38.9% |
Ⅳ期 |
7.2% |
7.5% |
Findmed. http://www.findmed.jp/topics/stomach/1520
他臓器への転移がある場合は、ステージⅣで、5年生存率は7.2%です。
それに対し、初期の胃がんであるステージⅠは5年生存率が97,2%と非常に高い確率になっております。
胃がんの転移
リンパ節転移
胃の周りのリンパ節にとどまり、そこからがん細胞が増えていくとリンパ節転移となり、進行すると、さらに遠いリンパ節へ転移しています。
そのため、胃がんが進行すると、リンパ節にがん細胞が潜んでいる可能性が高くなるのです。手術では、胃がんを切除するだけではなく、潜んでいる疑いのある胃の周りのリンパ節を取りますが、このことをリンパ節郭清(かくせい)といいます。リンパ節郭清は胃がんの進行具合によって範囲を設定しますが、胃がんのできた場所によって異なります。
血行性転移
胃がんが進行して表面の粘膜から胃壁の中へ入ってしまうと、胃壁にある血管から血流に乗って他の場所で移動してしまう場合があります。
血行性転移として最も多いのは肝臓です。
肝臓への転移などの血流による転移が起きた場合、全身のほかの場所にも転移があることが考えられます。手術ですべてを取り除くことは難しくなるので、抗がん剤治療がメインとなります。
腹膜転移
がんが増殖し、胃壁を突き破り腹膜まで達し転移することがあります。
内臓を包んでいる腹膜のあちこちに、散らばるように転移してしまうので、ほとんどの場合、切除手術でがんを取り除くことができません。
この場合は、原則として抗がん剤治療や緩和ケアが中心となります。
肝臓転移の場合の治療
胃がんの血行性転移で多いのが肝臓への転移です。
肝転移を起こしている状態では、胃の近くのリンパ節や腹膜にも転移している場合が多いため、手術療法ではなく、肝動注療法と呼ばれる動脈に抗がん剤を注入することで、辛い症状や痛みを取り除き、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高める治療が行われます。元々は胃癌のがん細胞であることから、他の臓器に転移していても胃癌の性質を持つことになるため、肝臓転移の場合も胃がんの抗がん剤を使用します。
ただし、胃がんの肝転移の個数が少ない場合は、切除手術を行った後の予後も良好であり、長期的に良い状態を保てることもあるという報告があります。
肝臓には再生能力があるため、正常な肝臓であれば、手術前の30〜40%程度の肝臓が手術後に残っていれば、数週間で再生しほぼ元の大きさに戻ります。そのため、効果的な抗がん剤治療ができるようになった現在では、小さくはなっても肝臓全体に多発した肝転移を、1回目の手術でできるだけ切除し、残りの肝臓が再生した後の2回目の手術で取り残したものを全て切除できることがあります。また、肝臓の再生を待っている肝切除と肝切除のあいだに、抗がん剤治療を行うこともあります。
胃がんとオプジーボ
近年注目されているがん治療に免疫療法があります。がんの三大治療と言われている、手術療法、抗がん剤療法、放射線療法に次ぐ、第四の治療法と言われています。
免疫療法とは、本来体内にある免疫力を高めることで、がん細胞を排除しようとする治療法です。通常、人間の体内で発生しているがん細胞は、免疫によって「異物」と判別され、排除されています。ここで中心的な働きをするのが、白血球と、白血球に異物の情報を伝達する役割をもつ樹状細胞の免疫細胞です。免疫が弱まっていたり、がん細胞が免疫から逃れる術を身につけて免疫にブレーキをかけてしまうと、がん細胞を排除しきれないことがあります。するとがん細胞が増殖し、がんを発症してしまうのです。このブレーキの役割をするものを「免疫チェックポイント」と呼びます。「免疫チェックポイント阻害剤」は、そのブレーキを外す役割を持つ薬になります。免疫へのブレーキを外し、正常に免疫機構を働かせる役目があるのです。
薬品名「ニボルマブ」は商品名「オプジーボ」として発売され、2014年にメラノーマ(悪性黒色腫)への利用が承認されたのを皮切りに、2017年には一部の進行性胃がんにも適応になりました。
免疫チェックポイント阻害剤は、あくまでもブレーキを外す役目なので、肝心の免疫細胞の働きが弱まっている患者様の場合は、あまり効果的とは言えません。その場合、樹状細胞を活性化させることができるワクチンなどを併用し、効果を高める場合もあります。
非常に著しい効果が出る方が居る一方、それほど効果が出ない方も居る事が解ってきており、治療効果が得られるかどうかを事前に検査する方法が開発されています。
このように、免疫療法では様々な治療法と組み合わせることにより相乗効果を生み出し、より効果的な治療が行われています。
まとめ
胃がんが肝臓転移した場合は、非常に進行した状態であるといえるでしょう。その場合の治療法はできる限りがん細胞を取り除くことで、予後がよくなることが知られていますが、手術が不可能な場合は、主に全身療法である抗がん剤治療が選択されてきました。しかし中には抗がん剤に反応しない場合があり、2017年に免疫チェックポイント阻害剤である「ニボルマブ(商品名:オプジーボ)」の適応が承認され、その効果が注目されています。がんの治療薬としては、画期的な発明であり今後も適応の拡大に期待が高まります。このようにがん治療は日々進化しており、近い将来、がんが完治できるような治療法の出現も夢ではないのかもしれません。
岩崎どど(イワサキ・ドド)
医療ライター・臨床検査技師。
総合病院の臨床検査科勤務時代には、病棟を回り心電図検査や採血などをしておりました。
患者様との会話の中から、病気の苦しみや様々な悩みなどを見聞きした経験を生かし、
がんに関する記事を寄稿しております。また、がん患者を持つ家族としての立場から、
「今」知りたい最新のがん治療について特にお伝えしていきます。
HP 「どどの家」https://dodoiwasaki.com/
国立がん研究センター がん情報サービス
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がんの転移が心配な時に読むサイト
http://www.gan-metastasis.net/