胃がんは、全世界的にみてアジアや南米に多いがんで、日本においても罹患率や死亡率の高いがんになっています。日本の伝統的な食生活である、いくら・塩辛といった塩蔵品や、醤油や味噌といった塩分の多い調味料なども胃がんのリスクファクターとされています。
こちらのページでは、胃がんの基本情報と、ステージ分類別の生存率についてご紹介します。
目次
胃について
胃は食道と小腸(十二指腸)の間の袋状の臓器で、食道からの入り口は噴門と呼ばれ、その辺りは噴門部と呼ばれます。胃の上部は胃底部、中央は胃体部と呼ばれ、十二指腸の出口は幽門と言い、その周辺を幽門部と呼ばれています。
胃には一時的に食べ物を貯留する機能があり、また胃の粘膜から消化液を出して食べ物を分解する働きがあり、消化された食べ物は少量ずつ小腸へ送り出します。
国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html
胃の構造は、内側から粘膜上皮・粘膜筋板・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜という、各組織で構成されています。
胃がんとは
胃がんは、一番内側の細胞である胃の粘膜上皮が慢性胃炎や胃潰瘍などの慢性の刺激により正常な細胞が変異してがん細胞になると考えられています。正常な細胞の遺伝子が傷つくと「がん抑制遺伝子」の働きで、異常を修復したり、そのまま死滅させたりしますが、このがん抑制遺伝子に異常が起こると、増殖を抑えることができない状態になります。そうして出来たがん細胞は、検診で発見される様な大きさになるまでには、数年かかると言われています。がんは増殖していくと、表面が盛り上がって来るだけでは無く、胃壁の深いところまで浸潤し、やがて胃壁を突き破り近くにある大腸や膵臓に広がって行きます。
胃がんの原因
胃がんの原因は、様々な要因が考えられますが、大きく下記の4つの要因があります。
① 食事とアルコール
胃を刺激するような香辛料の強いものや、塩分の多いもの、アルコールは胃壁にダメージを与え、がんを誘発するといわれています。
② 喫煙
国立がん研究センターの予防研究グループによると、喫煙によって胃がんのリスクが確実に高くなるとの報告があります。
③ ストレス
ストレスで胃潰瘍や胃炎を繰り返すと、胃壁に刺激が常に与えられがんが出現しやすくなります。
④ ヘリコバクター・ピロリ菌
難治性胃潰瘍の原因菌と言われ、胃がんに進行すると言われています。
胃がんの症状
早期の胃がんでは特に自覚症状が無く、吐き気・げっぷ・食欲不振・胃のもたれなど、一般的な胃潰瘍や胃炎のような症状です。みぞおちの痛みなども感じられる事があります。特に食欲不振ではないと感じる方でも自然と体重が減少した場合は、知らず知らずのうちに食欲が落ちている事もあるのです。
胃がんが進行してくると、がん細胞から出血する事があり、吐血や下血(黒っぽい色になる)などが認められます。出血の量が増えると貧血の症状が出る事もあります。
胃がんの検査
胃がんの検査は、胃部X線検査・内視鏡検査を実施し、病変の有無を調べます。
病変部が確認できた場合は、内視鏡検査で組織を切り取り、検査を実施します(病理検査)。
がんが認められた場合は、超音波検査・CT検査・注腸検査などを実施し、がんの広がりや、深達度を調べます。それらのデータよりがんの病期を決定し、治療方法を決定します。
国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/diagnosis.html
血液検査
胃がんでは、腫瘍マーカーであるCEAやCA19-9の値が上昇する事があり、血液検査を実施します。しかし、胃がんに特徴的という訳では無く、他の病気でも異常値になる場合もある為、手術後の再発の指標として、また薬物療法の効果を調べる為に検査を実施しています。
また、胃がんから出血が持続的に起こると、貧血になりますので、血液検査にもその結果が現れます。
胃X線検査
胃の形状や粘膜の状態などを、バリウムを飲んでX線写真で確認する検査方法です。
初めに発泡剤を飲み、胃を膨らませた状態で行います。
健康診断では一般的に実施されておりますが、精密検査としては内視鏡検査が選択される場合が多く、実施しない場合もあります。
内視鏡検査
口、または鼻から内視鏡を入れて、直接胃の内部を検査する方法です。病変部分は一部を採取し病理検査を実施します。
がんの深達度を精密に検査する場合は、超音波内視鏡検査が実施される場合もあります。
病理検査
内視鏡検査で病変部分を採取することを生検といい、生検した細胞を特殊な溶液や染色液を用い、顕微鏡で細胞または組織を確認する検査です。悪性か良性だけでなく、がんの深達度やがんの種類などが解ります。
診断が難しい場合は、内視鏡検査と病理検査を何度か繰り返す事もあります。
超音波検査
超音波検査は超音波をあててはね返ってきた音波を映像として処理するものです。異常のある組織は音波がはね返ってくる時間が正常な組織とは異なるため、病変として映し出されることになります。
胃は中が空洞の臓器の為、胃の内部の病変は超音波検査では判断できない為適しておりませんが、周辺臓器への浸潤やリンパ節への転移の有無については検査可能です。
超音波検査は、患者様への負担が少なく検査に対する事前準備なども特に必要のない検査です。
CT検査
X線を使って体の内部を輪切りのように描き出し、撮影する検査です。別の臓器への転移やリンパ節への転移、肝臓など胃の近くにある臓器への浸潤などを調べる事が出来ます。
CTではヨード造影剤を用いますので、腎臓病や喘息、アレルギーのある人は医師に申し出てください。
注腸検査
造影剤を肛門から注入してX線写真を撮ります。前日から検査食を食べて腸内に便がない状態になるように下剤を使用し腸内をきれいにしてから検査を実施します。注腸検査はもともと大腸がんの有無を調べる検査ですが、胃のすぐ近くを通っている大腸にがんが広がっていないか、腹膜播種の有無なども調べる事が出来ます。
胃がんのステージ分類
ステージ分類とは、進行の程度を表す言葉です。
がんの深さが粘膜および粘膜下層までのものを「早期胃がん」、深さが粘膜下層を越えて固有筋層より深くに及ぶものを「進行胃がん」といいます。
胃がんのステージ分類におけるがんの深さは、がん細胞がどの組織まで入り込んだのかを検査し、がんの広がりはリンパ節の転移の有無と数、他臓器への転移を検査する事で決定します。
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胃がんの臨床病期と治療
がんが粘膜または粘膜下層にとどまっているステージⅠA期は、内視鏡治療でがんを取り除くことが出来ます。
ⅠB期よりも進行しているがんについては手術療法を行います。手術後に摘出して来た胃の病変部を検査し、がんの浸潤度合を確認した後で、抗がん剤治療を実施するかどうかを決定します。
再発や転移の防止の為に、抗がん剤を用いる事もあります。
Ⅳ期のがんは抗がん剤治療や放射線治療、対症療法、緩和ケアを中心に、必要であれば手術療法も行います。
胃がんの生存率
以下に胃がんの死亡率と罹患率の多い順の表を掲載します。
死亡率は、男性が第2位、女性が第4位と非常に多くなっております。
罹患率は、男性が第1位、女性が第3位となっており、患者数は多いですが、死亡率は上位を占める他のがんよりも少ないのが特徴です。肺を例にとると、男性において肺がんは罹患率2位ですが、死亡率は第1位となり、胃がんと逆転しています。
胃がんの死亡率が肺がんに比べて低いのは、比較的進行が遅い事と、検診で見つかる事が多い為に早期発見が出来る事が大きな要因です。
●2016年の死亡数が多い部位は順に
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | ||
男性 | 肺 | 胃 | 大腸 | 肝臓 | 膵臓 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸7位 |
女性 | 大腸 | 肺 | 膵臓 | 胃 | 乳房 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸2位、直腸9位 |
男女計 | 肺 | 大腸 | 胃 | 膵臓 | 肝臓 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸7位 |
●2013年の罹患数(全国推計値)が多い部位は順に
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | ||
男性 | 胃 | 肺 | 大腸 | 前立腺 | 肝臓 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸5位 |
女性 | 乳房 | 大腸 | 胃 | 肺 | 子宮 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸7位 |
男女計 | 胃 | 大腸 | 肺 | 乳房 | 前立腺 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸6位 |
国立がん研究センターがん情報サービスhttps://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
ステージ分類別 胃がんの5年生存率と10年生存率
ステージ | 5年生存率 | 10年生存率 |
Ⅰ期 | 97.2% | 95.1% |
Ⅱ期 | 65.7% | 62.7% |
Ⅲ期 | 47.1% | 38.9% |
Ⅳ期 | 7.2% | 7.5% |
Findmed. http://www.findmed.jp/topics/stomach/1520
胃がんは、早期であれば比較的生存率も高いがんです。
しかし、Ⅳ期は10%以下と大変厳しいものになります。
免疫療法の選択
免疫療法は、手術療法・薬物療法・放射線治療に次ぐ、第4の治療法として注目されています。
自己免疫力を利用する治療法になる為、比較的副作用が少なく、他の病歴のある方でも利用できるという利点があります。また、全身療法になる為、がんの種別に関わらず行う事が出来る為、抗がん剤が効かないがんに対しても利用できます。また、抗がん剤治療との併用も効果的です。
がんの発生には、まだまだ謎が多くすべてが解明されている訳ではありませんが、体内の免疫機能を利用しがん細胞の発生を抑制したり、増殖を抑えたり出来る事が解ってきました。
現在は、認可されている薬が限定されている事や、治療を実施する医療施設が少ない事など免疫療法はメジャーな治療方法とは言い難いですが、今後のがん治療において、大変期待が寄せられる治療法だと言えるでしょう。そして、予防として免疫療法が選択される時代が近い将来やって来るかもしれません。
まとめ
胃がんは日本において罹患率が高いがんのひとつで、死亡率も上位を占めているがんですが、早期発見できれば死の病ではありません。刺激物の多い食事やアルコール・喫煙といったリスクファクターを取り除いた生活習慣を続ける事で予防に努めましょう。また、自己免疫力を高めがんを未然に防ぐ治療法も出てきました。そして胃がん検診を受診し早期発見することで、がんに打ち克つことができるのです。
がんのきほん(がん総合情報ポータルサイト)
http://www.gan-info.com/305.8.html
国立がん研究センターがん情報センター
https://ganjoho.jp/public/index.html
国立がん研究センター予防研究グループ社会と健康研究センター
http://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/785.html

医療ライター・臨床検査技師。
医療の現場での経験を生かして、がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。