膵臓癌は、現在死亡率の非常に高い癌として知られています。
膵臓癌の5年生存率は9.2%と言われ(全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査 (2017年5月集計)による)、
全癌患者の統計を見ても、一番生存率が低い癌になっています。
では、なぜこのように予後が悪いのでしょうか?
特徴として、症状が無い・再発しやすいと言われており、
言い換えれば、検診で引っかからない、明確な検査方法が特に無い、そして有効な治療法が確立されていない、と言えるのでは無いでしょうか。
現在の医療の現場において、困難を極めている癌が、この膵臓癌だと言っても過言ではありません。
このページでは、膵臓癌がなぜ予後が悪いのか、その理由を様々な角度から、
お伝えしていきます。
目次
膵臓について
膵臓はどこに位置しているか
出典:Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Illu_pancrease.jp.jpg
膵臓は、成人で長さ15cmから20cm位の細長い臓器で横長に存在しています。
図の左側、十二指腸側の太い部分は膵頭部(頭部)、
図の右側、脾臓側の細い部分は膵尾部(尾部)、
膵臓の真ん中は体部と呼ばれています。
膵臓には、膵管と呼ばれる細長い管が、膵臓を貫いて細い網の目のように走っています。
膵臓の機能について
膵臓は、消化液を分泌する外分泌機能と、ホルモンを分泌する内分泌機能を持っています。
膵液と呼ばれる消化液は、膵管を通して十二指腸内へ送られます。
この膵液の中には、
トリプシン、リパーゼ、アミラーゼなどの消化酵素、
そして核酸を分解する酵素を含んでいます(外分泌機能)。
また、膵臓に点在するランゲルハンス島からは、糖の代謝に必要なインスリン、グルカゴンなどのホルモンが分泌されます(内分泌機能)。
インスリンは、血液中の糖をエネルギーに変える性質があるので、インスリンの分泌不足、または何らかの原因で働きが弱くなると血液中の血糖値が上昇してしまいます。
このように膵臓は、食べた食物を消化するために必要な酵素を出す外分泌機能、
糖をエネルギーに変える内分泌機能、
この2つの働きがあり、それぞれを調節する役割をしています。
膵臓がうまく働かないと、食事で体内に取り込んだ栄養が分解されないために、各細胞に栄養が供給されず、エネルギーが産生できなくなるのです。
私たち人間にとって、非常に重要な臓器の一つである事が解ります。
膵臓の検査方法
血液検査
膵臓の機能を調べる検査項目としては、血中アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ1などがあります。いずれも異常値が出ても膵臓癌で特異的に変動するようなものではありません。
また、膵臓癌の腫瘍マーカーには、CA19-9、CEA、Dupan-2、Span-1などがあります。しかし、こちらも膵臓癌に特徴的とは言えず、補助診断の項目に過ぎず、膵臓癌の早期発見に有効とは言えません。
コンピューター断層撮影(CT)
X線で体内にある病変の状態や周囲の臓器への浸潤、転移の有無を調べます。
診断には、造影剤を用いたマルチスライスCT(MDCT)検査が推奨されています。MDCTは、1度の造影で、多方向からの観察ができる検査方法です。
造影剤を用いることで、血流や病変を詳細に見ることができますが、腎機能が悪い人は副作用の危険性があります。
MRI検査
磁気を使って体の内部を撮影する検査です。
ガドリニウムという造影剤を使用します。
ぜんそくやアレルギーを持っている方、腎機能障害がある方は副作用の危険性があります。
腹部超音波検査(US)
腹部超音波検査は、患者様に負担の少ない検査方法として、また様々な臓器を検査できるものとして、医療現場で頻繁に利用されています。
しかし、膵臓の検査に関しては、胃の裏側にあるということや、背中側からは背骨があるために、超音波が届かないという欠点があり、膵臓癌の早期発見には困難です。
超音波内視鏡検査(EUS)
経口で管状の超音波装置を入れて、消化管(胃や十二指腸)の中から膵臓または、周辺の病変部に超音波をあてます。体表面からの超音波検査よりも、患部の状態や病変の広がりの様子をより詳細に観察できます。
腹部表面からの超音波検査で膵管の拡張や膵のう胞が認められた場合などに行われます。
超音波検査をしながら、病変部分に針を刺し、病変組織を採り、検査を行う事もあります。
内視鏡的逆流性胆管膵管造(ERCP)
膵臓・胆道部で用いられる内視鏡検査は、食道や胃などの内視鏡検査とは違い、内視鏡的逆行性胆膵管造影法(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP) というX線検査などを組み合わせた方法が行われます。
内視鏡の管を十二指腸まで挿入し、膵管と胆管につながるファーター乳頭部より、先端から造影カテーテルという細いチューブを膵管や胆管に挿入して、造影剤を直接注入しX線像を撮るのです。
ERCPは優れた画像が得られるので、小さな病変も発見でき、その後の組織検査も容易に可能となるため、とても頼りになる検査法です。最近では、CT検査やMRI検査などの進歩に伴い、他の検査と併せて用いられるようになっています。
MR胆管膵管造影
MRIを用いて、胆管や膵管を撮影する方法で、内視鏡や造影剤を使用せずに検査をすることが可能で、前出のERCP と同様の画像が得られるとされています。
そのため、膵臓癌の検査にはこちらの方法が選択される場合が多い です。
PET
PETはPositron Emission Tomographyの略称で、
癌の多くでブドウ糖代謝が活発であることを利用している検査方法です。
放射性物質が含まれるブドウ糖液を注射し、
その取り込みの分布を特殊なカメラで撮影することで全身のがん細胞を検出します。
早期発見はできませんが、再発予防の検査などに活用されています。
膵臓癌が早期発見できない理由
膵臓癌の早期発見は、現在のところ有効な手段がないことは、
様々な検査法を紹介していく中で、確認できたのではないでしょうか?
早期発見ができない理由をまとめます。
1、 膵臓は、様々な臓器に囲まれ、身体の深部に存在している臓器であり、その検査法も早期発見に適しているものが無い。
2、 臓膵臓癌の初期症状に特徴的なものがない。胃のあたりや背中が重たい、食欲が無い、体重が減った、お腹の調子が良く無い、などの他の病気と似た症状が多く、発見されにくい。
3、 膵臓癌で特異的に異常値を示すような血液検査の項目が無い
以上のことから、膵臓を検査するような検診項目がなく、その為、早期発見は大変難しい状況になっています。
激しい腹痛などの自覚症状がある状態では、既に癌は発育し、他臓器に転移している場合が多く、手術の適応外の場合も多いのが実情です
膵臓癌の予防
「非常に予後が悪く、検診方法もない。
そして、自覚症状もないままに、気がついた時には末期という恐ろしい癌。」
現在の膵臓癌に対するイメージは、これに尽きるのではないでしょうか?
では、そのような恐ろしい癌を未然に防ぐには、どのような事に気をつければよいのでしょうか?
膵炎、胆石症、糖尿病、遺伝、生活習慣(喫煙・飲酒・食生活・運動)などが、膵臓癌のハイリスクグループと言われていますが、特異的なものではありません。
発生要因なども特に解明されている わけではなく、
ごく一般的な癌の予防を行うしかないのが現状です。
未病を予防する
未病とは、健康と病気を2つの明確に分けられる概念として捉えるのではなく、心身の状態は健康と病気の間を連続的に変化するものと捉え、このすべての変化の過程を表す概念です。
手術療法・放射線療法・薬物療法に次ぐ第4の治療法と注目されているものに、免疫療法があります。
現在認可薬として存在するものが少なく、研究段階なものが多いですが、癌の予防という観点では、非常に有効なものの一つだと言えます。
人間の免疫機構は、異物と感知したものに対して働くもので、がん細胞を破壊するのにも有効とされています。
免疫力を高めておけば、体内に生まれた癌細胞を、発育する前に破壊することが可能になるかもしれません。
現在は自費診療が主になっていますが、癌予防を積極的に行いたいと考える方々が、取り入れている方法の一つとなっています。
免疫療法の利点は、全身療法であることで、すべての癌の予防につながるということが挙げられます。
癌は、対処療法が主だった時代から、検査技術の進化と予防医学の発展により、早期発見の時代へと変遷してきています。
病気予防の更に進んだ形、未病(病気ではないが、健康でもない状態)の予防 を行うことが、
真の意味で、病気予防と言えるのではないでしょうか?
免疫療法は、未病の予防を積極的に行える一つの手段になります。
まとめ
現在、膵臓癌に対して、有効な早期発見の方法や予防法などはありません。
癌が発見される前に、まずは癌にならない予防習慣を身につけましょう。
出典
国立がん研究センター がん情報サービスです
https://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/index.html
がん治療.com
http://www.ganchiryo.com/
おなかの健康.com
http://www.onaka-kenko.com/endoscope-closeup/endoscopy-role/endoscopy_03.html
MI-BYOサミット
https://www.me-byo-summit.jp/about/

医療ライター・臨床検査技師。
医療の現場での経験を生かして、がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。