癌の手術は、患者様にとって心身ともに消耗します。
できる限り気持ちを整えていくために、事前に手術の準備の流れを確認しておきましょう。
今回の記事では、事前に心の準備を整えるために知っておいた方がいい手術の流れをご紹介していきます。
手術は、主にこの5項目の流れに沿って行います。
・癌の手術の流れ(前日、当日、手術実施前後)
・癌患者様の周囲のケア
・癌の手術のメリットとデメリット
・癌の手術の後遺症
・癌手術のクリニカルパス
ひとつひとつ、ご説明していきます。
目次
1.癌の手術について
1-1.前日の流れ
1-2.当日の流れ
1-3.癌の手術実施前後
2.癌患者様への周囲のケアについて
3.癌の手術のメリットとデメリット
3-1.メリット
3-2.デメリット
4.癌の手術の後遺症
4-1.排便機能障害
4-2.排尿機能障害
4-3.性機能障害
5.癌手術のクリニカルパス
5-1.癌の手術と免疫療法
6.癌の手術に向き合うために
目次
癌の手術について
癌の手術の内容や医療機関、担当医の治療方針によって手術の流れは変わります。
ただし、どの医療機関においても概ね同じ流れです。
近年の癌の手術の傾向としては、入院前に外来で、担当医等から手術の説明を受けます。
また、手術当日の1~2日前から入院して癌の手術前の検査も実施されることもあります。
前日の流れ
入院生活 |
担当の看護師から入院生活における、おおまかな流れの説明を受けます。 ・面会時間 ・消灯時間 ・設備説明(テレビカード等) 等があります。 |
麻酔 |
担当の麻酔科医から説明を受けます。 手術時の麻酔の説明や、麻酔を安全に使用するための問診、手術後の麻酔が切れた後の説明等 |
入浴 |
癌の手術後は、入浴を控えるよう指示を受けることが多いです。そのため、手術前に丁寧に身体を洗い、清潔にしておきましょう。 |
除毛、剃毛、おへその掃除 |
癌の手術の種類によっては、体毛を剃ることがあります。 感染予防を目的に実施していますが、近年の傾向としては必要最低限を部分的にカットする程度ですむことが多いようです。 |
食事 |
通常、癌の手術前日の夕飯までは制限がかけられません。 ただし、手術内容によっては水分まで制限がかけられることもあります。 |
薬 |
日頃から飲んでいる薬があれば、担当医に相談しましょう。 |
排泄 |
癌の手術当日の朝に排便をするために、前日に下剤を処方されることが多いです。 |
呼吸訓練 痰を出す訓練 |
癌の手術を受けた後の身体の動かし方の説明を受けます。 腹式呼吸での呼吸方法、痰を出すコツ等 手術後の合併症予防として、肺炎のリスクを下げます。 |
癌の手術前日は、あらゆる「説明」を多く受けるため、患者様自身が混乱するかもしれません。
説明を受けて分からないことをそのまま放置すると、不安として残ります。
その都度、聞きましょう。
不安で眠れないのであれば、担当医や看護師に相談すると、睡眠剤を処方してもらうこともできます。
当日の流れ
食事 |
開始時間にもよりますが、癌の手術当日の朝食から水分を含み、絶食を指示されます。 うがいだけにとどめましょう。 |
着替え |
身に着けないもの ・眼鏡 ・コンタクト ・アクセサリー ・入れ歯 ・下着 装飾品や衣服を全て脱ぎ、手術着に着替えます。 マニキュアも落とし、爪を短く切ります。 手術中は、長時間横になったまま同じ姿勢が続くため血流が悪くなり血栓ができやすくなります。 エコノミー症候群(肺塞栓)という合併症予防のために、「弾性ストッキング」をはきましょう。 |
排泄 |
消化器官の手術であれば特に、浣腸や下剤で排泄物を体外に出しておきます。 |
点滴 |
全身管理のために手術前後を含み、手術中も受けます。 |
準備ができたら、付き添いのご家族といたり、読書や音楽を聞いてリラックスしましょう。
癌の手術の開始時間まで待機します。
癌の手術実施前後
癌の手術直前の流れを説明します。
手術室へ移動
近年は取り違え防止のために、ストレッチャー移動はせずに、患者様自身が歩いて、看護師さんと移動するのが主流です。
名前とリストバンドのIDを確認
手術室入室前に、名前とリストバンドIDの確認が行われます。
患者様の取り違え防止のため、手術室入室後も念入りに確認されます。
手術室入室後
医療機関によっては、手術室内に流れるBGMを好きな音楽にリクエストすることができるようです。
手術台へは、患者様自身が上がり、執刀医をはじめ、手術担当の医療スタッフからあいさつされた後、麻酔をかけられます。
あっという間に患者様自身は意識が遠のきますので、目覚めたら手術後だったというケースがほとんどです。
手術後、麻酔から目覚めた時
局所麻酔か全身麻酔によって目覚めに時間差があります(※全身麻酔だと目覚めに時間がかかりやすいです)。
癌の手術の種類によって、術後の症状もさまざまです。
痛みがある場合、我慢は禁物です。
担当の看護師さんに相談してください。
麻酔後の症状として、寒気や熱、痛み、しびれ、痰、だるさ等がでます。
癌の手術当日は、絶対安静を基本とし、翌日から少しずつ体力を回復させるために身体を動かします。
癌患者への周囲のケアについて
患者様は、癌の手術に向けて不安になりやすく自分のことで精一杯になりやすいです。
患者様の近親者も、無事に癌の手術が成功するか不安に思うことでしょう。
癌患者様への周囲のケアについて大事なことは
・無理に励まさず普段通りに
・心配事は担当看護師に相談を
・周囲に不安な気持ちを話す
患者様にとっては、不安な癌の手術を受ける時にそばで寄り添ってくれるだけでも、不安が和らいで心が落ち着きます。
あえて患者様のために何かサポートをしたいということであれば、普段は患者様が担当している家事やペットの世話などを代わりにすると、喜ばれると思います。
また、患者様を支える近親者もまた、不安や辛さを抱えています。
1人で悩みを抱え込まずに、看護師や担当医への相談、「癌相談支援センター」で患者サロンを利用し、相談すると不安も解消されるのではないでしょうか。
そして癌の手術が無事に終了したら、患者様に「がんばったね」と労いの言葉をかけてあげましょう。
患者様自身にとっては、その言葉だけでも安心感が生まれます。
癌の手術のメリットとデメリット
癌の病巣ごと取り除けるので、転移がない場合は、完治に近づけることが最大のメリットです。
しかし、転移の可能性は0ではないことと、手術のリスクはゼロではありません。
メリット
・転移がなければないほど完治しやすい
・癌の病巣ごと取り除けるので、予後回復が早い
・6~7割が仕事復帰を果たしている
転移がなければないほど、癌の病巣ごと取り除くことができるため、完治しやすく予後回復が早いです。
一昔前までの癌の手術は、身体への負担が大きいというマイナス要因が大きかったのですが、近年は、身体への負担を軽くする手術方法(腹腔鏡下手術、胸腔鏡下手術etc.)が選択されることも多いです。
そのため、癌の手術といっても、癌の種類や臓器によって実にさまざまな手術法があります。
医療技術が進み、癌の手術によっては日帰りで終了することもあります。
そのため、仕事復帰を早く果たせ、外来治療で癌の完治を目指す人も少なくありません。
デメリット
・癌の転移、再発するかもしれない
・切除する臓器によっては、機能しなくなる
・身体にメスを入れるため、傷や体力回復に時間を有する
・転移が多いと癌細胞を手術では取り切れない
・癌の手術を受けたことによる後遺症が出ることがある
癌転移の可能性があるまでは、たとえ癌の手術を受けても「完治」とは言えません。
また、癌の転移が数値化して見える「腫瘍マーカー検査」で確認できなかった小さな転移を癌の手術で完全に取り除くことができない場合もあります。
その場合、癌が再発してしまうことも十分に考えられます。
癌の手術そのものは完治するのに有効な手段であることは間違いありません。
ただし、転移の範囲が広ければ広いほど、癌細胞を完全に取り除くことは難しく、臓器によっては手術後、機能しなくなるリスクもあります。
癌の手術の後遺症
手術を受けた臓器によっては、後遺症がほとんど出ないこともあるようです。
後遺症が出る場合、どのようなことが起きるのかについて見ていきましょう。
排便機能障害
直腸癌の手術を受けた時に、発症しやすい後遺症です。
手術で直腸を切除してしまうと、便をためる機能が低下し、少しずつ繰り返して排便をするようになります。
便の形状も、水分調整が上手く機能せずに水っぽくなりやすいです。
便が直腸まで届いていないのに、自律神経が傷ついてしまっていることで、便意を感じやすく頻繁にトイレに行っても上手く排泄できない事象も起きます。
しかし、個人差はあるものの時間経過にともなって体力が回復すれば、症状は安定します。
排尿機能障害
・尿意を感じにくい
・自力で排尿できない
・残尿感がある
・尿漏れがある
骨盤の自律神経が傷つけられてしまうと起きやすくなります。
できるだけ癌の手術の時に、自律神経を温存する意向が取られますが、癌の病巣の位置によってはやむを得ず、切除することもあります。
排尿機能障害の症状が軽ければ、膀胱収縮を助ける副交感神経刺激剤などの薬で治療することもあります。
仮に残尿が1日150CCを超える場合、自己導尿※をします。
これは、膀胱炎や腎臓機能の低下予防を目的としています。
自己導尿に大半の方は抵抗感を持っていますが、症状は一過性のものなので、しっかりと治療を受けることで、排尿機能障害の症状も早く回復します。
※自己導尿とは
膀胱まで尿の出口から入れたカテーテルを挿入して、膀胱内にたまった尿を排出する方法です。
性機能障害
性機能をつかさどる自律神経が傷つけられてしまうと、性機能障害が起きやすくなります。
男性の場合
勃起障害や射精障害が起きる可能性があります。
勃起が上手くできずに性行為に支障が出たり、膀胱内へ射精してしまう(逆行性射精)症状などが現れます。
さまざまな治療法があるため、泌尿器科で相談しましょう。
女性の場合
卵巣や子宮、リンパ節を切除してしまうと、排尿障害に加えて更年期症状、リンパ浮腫、排便機能障害等さまざまな症状が出る可能性があります。
癌手術のクリニカルパス
クリニカルパスとは、完治するまでに必要な検査や手術項目の一覧表です。
どんな検査や手術をどのタイミングで行い、退院はいつ頃になるかが一目で分かるようになっています。
クリニカルパスの参考として、乳癌の場合の一例が以下になります。
資料:乳がん 手術リハビリテーションクリニカルパス(国立がん研究センターがん情報サービス)
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/path/path_breast4.html
癌の手術と免疫療法
癌の手術は体力を消耗します。
体力を温存するために「免疫療法」を活用する人もいます。
・丸山ワクチン
・ハスミワクチン
・NK療法
・HITV療法
etc‥
免疫療法はこの他にもさまざまな種類があり、どれが良いかは個人差があります。
また、癌の手術後と併用して受けられない免疫療法もありますので、受ける前はご注意ください。
免疫療法は自由診療なので、受けたい気持ちと金額を視差して、利用するかどうか考えましょう。
免疫療法は、癌治療の新しい選択肢として、人生の選択の幅を広げられる可能性を秘めていると言われています。
丸山ワクチン
結核患者は、癌患者にならないという所に着目して、結核菌を利用して免疫細胞を調整してワクチンを作り出しています。
結核に侵された人は、何癌でもなりにくいとも提唱されており、ワクチンに加工して、体内に取り入れると癌になりにくい体質ができると言われているのです。
丸山ワクチンにはAとBという種類があり、日をまたいで交互に 接種しなければいけません。
特徴として、以下があげられます。
・癌の種類に関わらず、使用可能
・副作用が少ない
・他の療法と併用して使える
・金額は月約1万円程度
ハスミワクチン
癌は種類ごとに抗原が異なっているのですが、ハスミワクチンの場合、全て臓器の種類ごとに癌細胞を培養し、そこから抗原を抽出してワクチン化しています。
癌患者の腫瘍から癌細胞を抽出して培養し、ワクチンとして大量生産しているため、価格も低コストですみます。
特徴として、以下があげられます。
・自分の腫瘍サンプルがなくても、利用できる
・副作用が少ない
・他の療法と併用して使える
・金額は月2万円程度
NK療法
「癌細胞そのものに攻撃をしかける」特徴を持つNK(ナチュラルキラー細胞)を利用して、癌細胞を攻撃する療法です。
通常6回で1クールとなっています。
1回が約20~30万円で、1クールが約180万円かかります。
NK療法には、上記で伝えたように派生して、NKT療法やハイブリッド療法などさまざまな種類があります。
HITV療法
体内に侵入してくる細菌やウイルスを排除する信号を出す樹状細胞を利用して、癌細胞を死滅させる療法です。
免疫細胞療法は高額であることが多いです。
多くの病院が、単発売りではなく、パック料金にして前払い一括を推奨していますが、HITV療法は、1回ごとの治療後に支払う形式を提供しているようです。
ただし1回ごとの治療費も決して安くはないため多くの方が数年単位で通院しています。
ですが、1回ごとの治療費を治療後に支払うのは、治療の成果を検証しながら継続を検討できるので、安心して受けられます。
癌の手術に向き合うために
癌の手術をスムーズに受けるために5つの項目に沿って癌の手術の流れと注意点を説明しました。
・癌の手術の流れ(前日、当日、手術実施前後)
・癌患者の周囲のケア
・癌の手術のメリットとデメリット
・癌の手術の後遺症
・癌の手術後の緩和ケア(クリニカルパス)
癌の手術を受けることになれば、無事に手術が成功するかどうか、後遺症の有無など不安を抱える要素はとても多いです。
少しでも不安を抱えることなく、癌の手術を受けるためにこの記事で不安が解消されればと思います。
決して1人で不安を抱えこまないように、担当医や看護師を含む周囲のサポートを受けることが大切です。