大腸がんの手術という大きな手術をして、その後の経過が気になりますよね。食事の摂り方も重要なポイントになります。今回の記事では、正しい食事の摂り方を徹底解説しています。ぜひご参考になれば幸いです。
目次
手術後1~2ヶ月の食事について
食べ物の消化・吸収の働きをしている大腸ですが、手術後どのような食事の摂り方が良いのか患者さんやご家族は悩まれることだと思います。手術後1~2ヶ月の食事について解説いたします。
術後早期に食事開始するときは腹6分目を目安に
近年では、大腸がんの手術後は、以前と比べると入院中の食事の開始時期が早くなり、普通食への移行期間が短縮されている傾向があるようです。手術後は、最初から全部食べようと頑張る必要はありません。「腹6分目」を目標にして、ゆっくりとよく噛んで、患者さんが食べたいものを少しずつ召し上がれば良いと思います。大腸がん手術後のおすすめの食品については後述いたします。
手術後3ヵ月間は段階的に食事をとる
手術後、しばらくのあいだは大腸の蠕動運動が鈍ります。その結果、便にまとめる機能が低下するため、排便のコントロールが難しくなり、頻便、下痢、便秘といった症状が起こりやすくなってしまいます。
また、開腹手術後およそ3ヶ月間は、腸閉塞を発症しやすいと言われています。もしも腸閉塞が起こってしまったら、すぐに絶飲食で、入院をする必要があり、最悪の場合は緊急手術が行なわれることもあります。手術後にトラブルを起こさないために、退院後の食生活では気をつけないといけないことがあります。
退院後に、原則としては食べてはいけないものはありませんが、手術後3ヶ月程度は、腸閉塞の予防のために、好ましい食品と控えたほうがいい食品を知って、調理方法や食べ方に注意して、段階的に食事をしていただくのが好ましいです。
大腸がん手術後のおすすめの食品とは?
大腸がん手術後に摂取すると良いおすすめの食品をご紹介いたします。
タンパク質
・肉:皮なし鶏肉、脂肪の少ない牛・豚肉、ささみ、レバーなど
・魚:あじ、さけ、かれい、すずき、たら、ひらめ、かきなど
・豆:豆腐、やわらかい煮豆、ひきわり納豆、きなこなど
・卵:鶏卵など
・乳:牛乳、ヨーグルト、乳酸飲料、チーズなど
糖質
穀類:粥、軟飯、うどん、パン、マカロニなど
イモ:じゃがいも、さといも、長いもなど
果物:缶詰、りんご、熟したバナナ、桃、洋梨など
菓子:ビスケット、カステラ、ゼリーなど
脂質
油脂:植物油、バター、マーガリン、生クリームなど
ビタミン・ミネラル
野菜:やわらかく煮た野菜(かぼちゃ、かぶ、カリフラワー、キャベツなど)、梅干しなど
その他
飲み物:薄いお茶、番茶、麦茶、ジュース、薄い紅茶、薄いコーヒーなど
調理法
煮る、蒸す、焼く、細かくきざむという調理方法が好ましいです。
食品について
大腸がんの手術後は、食べる食品について気をつけないといけません。
控えたほうがいい食べ物
肉:油の多い料理(カツ、ビーフステーキなど)
菓子:揚げ菓子、辛いせんべい、豆菓子など
油脂:ラード、油を多く使う料理(天ぷら、フライなど)
野菜:繊維の多い野菜(ごぼう、きのこ、たけのこ、ねぎ、れんこん、ふきなど)
香りの強い野菜(うど、にら、にんにく、みょうがなど)
かたい漬け物(たくあん、つぼ漬けなど)
間食として摂りやすい食品
・乳製品:牛乳、ヨーグルト、乳酸飲料、アイスクリームなど
・果物:缶詰、バナナ、りんご、ジュースなど
・パン:バターロール、クリームパン、ホットケーキ、やわらかいパンなど
・菓子:ビスケット、ウエハース、卵ボーロ、カステラなど
1日に摂りたい食品量の目安
「1,200カロリー、タンパク質50グラム」もしくは「1,800カロリー、タンパク質70グラム」が好ましいです。菓子や果物、乳製品は間食として食べると良いです。
1日に摂りたい食品量の献立
具体的な1日の献立を紹介いたします。
朝食 |
午前10時 |
昼食 |
午後3時 |
夕食 |
トースト |
ビスケット |
かに雑炊 |
ホットケーキ |
軟飯 |
食事の基本
手術後しばらくの間は大腸の機能が低下しているので、細かくきざんで、やわらかく煮込んで、消化の良い食事を摂るようにしましょう。自分のからだの状態に合わせて、さまざまな食品からいろいろな栄養を摂ることが大切です。
最も大切なことは、おいしく、楽しく、食べることです。これから記載することに注意して、栄養のバランスが整った食事を心がけましょう。
一度にたくさん食べすぎないようにしましょう
退院後2~3ヵ月ぐらいは、3食とは別に2~3回の間食を摂るようにしましょう。一度にたくさん食べ過ぎないようにします。朝、昼、夕の3食を基本として、午前10時と午後3時にビスケットと牛乳などの間食をとるなどすると良いです。
個人差はありますが、3~4ヶ月経ったら3食の摂取量が増加してくるので、間食の量は少しずつ減らしていけるようになると思います。
ゆっくりよくかんで食べましょう
よくかむことで、唾液と食べ物がよく混ざり、腸の負担が軽くなって良い効果があります。食べ物を少しずつ腸に送り出すようになります。
規則正しく食事をとりましょう
時間を守って規則正しく食べることにより、からだが食べ物を受け入れる態勢が整ってきます。すると、便通も安定していきます。
食事はバランス良く、消化に良いものを中心にして摂取しましょう
まだからだの調子を整えている段階のため、食事はバランス良く、消化しやすいものを中心にとるようにしましょう。体調が良くなったからといって、決して食べすぎないようにしてください。
アルコールは控えめに
手術後、少量ならばアルコールは飲むことができますが、担当医との相談のうえで開始するようにしてください。
しかし、人によっては炭酸を含むビールはおなかが張り、食事をとりにくくなって、ゲップが出たりします。食事に影響が出るようならアルコールは控えたほうが良いです。
また、手術後アルコールに弱くなってしまい、酔いやすくなる方もいるので気をつけてください。
大腸がん治療中に気をつけたい6つのポイント
大腸がん治療中の食事の気をつけたい6つのポイントがありますのでご紹介いたします。
腹6分目で分量を控えましょう
手術後の食事は「腹6分目」で大丈夫です。少なくても心配する必要はありません。3ヶ月ほど経って次第にもとの食事の量に戻していきましょう。
ゆっくりとよく噛んで食べる
よく噛むことで消化を助けることになります。大腸粘膜への刺激を減らすことができるだけではなく、腸閉塞や下痢、お腹の張りなど、排便トラブルの予防にもなります。
食物繊維と冷たい飲み物は控えめに
手術後1~2ヶ月は、硬くて食物繊維が豊富な食品や冷たい飲み物は控えてください。まだからだの受け入れ態勢が整っていませんので、体調を見ながら少しずつ慣らしていきましょう。焦る必要はありません。ゆっくりゆっくり慣れていきましょう。
調理方法にもひと工夫
しばらくのあいだは、手術後に好ましい食品を選んで、ポタージュスープやペーストなど、消化しやすい調理方法の料理を食べるようにします。
腸内の有用菌を増やす
ヨーグルトなどの乳酸菌飲料を献立メニューにとり入れてください。腸の働きを助けてもらいます。ただし、食べ過ぎには要注意です。ほどほどにバランス良く摂取します。からだの調子を見て調整していきましょう。
リラックスして食事を楽しむ
食事の時間はなるべく楽しめるように工夫すると良いです。例えば、器やランチョンマットなどを好みのものにしてみたりして楽しみましょう。食事の時間に好きな音楽をかけるのも良いですね。
大腸がんの予防
大腸がんを予防する方法は、さまざまな研究がされていますが、完全に予防する方法はありません。 しかし、大腸がんになりにくくする方法はあります。大腸がんが発生する危険性を下げることとして考えられているものをご紹介いたします。
最も信頼性が高いことは、適度な運動と肥満の予防です。 身体を動かすことの好きな方は、まったく運動をしない方の半分程度しか大腸がんにならないという研究結果もあります。適度に日にあたって、ビタミンDが多く体内で合成されることも有利に働くと考えられます。
食事に関しては、緑黄色野菜や魚を中心に食物繊維、カルシウム、そしてビタミンDの多い食事をして適度に日に当たることが、大腸がん予防に有効とされています。 野菜を十分食べている方は、まったく食べない方の半分しか大腸がんになりません。できるだけサプリメントに頼らず食事のなかから食物繊維をとることが重要です。
大腸がんの予防に良い食べ物
食事は、野菜と魚をきちんと食べることが重要です。食物繊維の多い食品、にんにく、牛乳、ヨーグルト、カルシウムの多い食事が、大腸がんのリスクを下げることがほぼ確実とされています。 野菜を小鉢で5皿、果物1皿、牛乳コップ1杯またはヨーグルトを1個くらいは毎日とれれば非常に良いですね。
運動は大腸がんの予防に一番
運動は大腸がんの予防になります。目安としては、毎日1時間程度歩き、週に1度は汗が少し出るくらいの運動をすることが良いです。 さまざまな研究がありますが、座って仕事をしている方よりも、からだを使う仕事をしている方のほうが、大腸がんの発生が少ないという事実があります。
また、適度な運動は、免疫力をあげることがわかっていて、 免疫力が高まるとがんの発生も予防できます。
がんの芽は早く摘むことが大切
がんは、細胞の中にある遺伝子の異常が蓄積して発生して、さらに遺伝子の異常が積み重なることで進展して、次第に進行していくとされています。大腸がんになった後にも遺伝子の異常が積み重なって、がんは転移を起こしてしまいます。 転移が悪化すれば生命を脅かすことになります。
したがって、大腸がんの前の段階である腺腫性ポリープで治療することによって大腸がんを予防することが大切です。 最近、アメリカの研究グループが、腺腫性ポリープの切除を受けた2602人を対象にして23年間経過観察したところ、通常の大腸がんの死亡率の半分以下になったとの報告をしています。
たとえ、がんになっていても早期にみつけることができれば根治するがんでもあります。 粘膜内にがんがとどまっている場合は、転移は全くと言ってもいいほど起こっていないので、その部分だけを切除すれば完治することができます。がんの芽は早く摘むことが大切というわけです。
便通が変化したときの食事療法と生活習慣
便通が以下4つのように変化しないか注意しましょう。
1.便秘:水分を多くとり、適度な運動をしましょう
2.下痢:消化の良い食品を摂り、水分を補いましょう
3.瀕便:食事時間を規則正しくとるようにしましょう
4.腹部膨満感:1回の食事量を控えるようにしましょう
免疫療法について
最近、「第4のがん治療」として注目されているのが免疫療法です。免疫とは、からだのなかに侵入した異物を排除するために、誰もが生まれながらに備えている能力です。この能力を高め、がんの治療を目的とした免疫療法を特に「がん免疫療法」といいます。
がんに対する免疫力を高める免疫療法は、具体的には以下のような種類の療法があります。
・免疫細胞療法
・ワクチン療法
・サイトカイン療法
・BRM療法
・抗体療法
3大がん治療方法(手術・化学療法・放射線治療)が外部からの力を借りてがんを治療するのに対して、免疫療法は主として本来からだが持っている免疫力を活かしてがんと闘います。免疫療法は、他の治療ほど即効性はない場合もありますが、効果が長期間持続することが特徴としてあげられます。これが免疫療法の最大の良い点です。免疫療法は、自分自身の持つ免疫力を使った治療なので、体力があって免疫の働きも衰えていない病気の初期段階で活用すると、より高い効果をあげることも知られています。
まとめ
大腸がんの手術後の食事方法について解説いたしました。好ましい食品と控えたほうがよい食品があります。好ましい食品は、
・皮なし鶏肉
・粥
・やわらかく煮た野菜
で、
控えたほうが良い食品は、
・油の多い料理
・揚げ菓子
・繊維の多い野菜
でしたね。
手術後は、食事の摂り方について気をつけましょう。しかし、あまりにも神経質になりすぎてはいけません。音楽をかけてみたり、器を色とりどりにしてみたり、工夫して食事を楽しみましょう。
また、「第4のがん治療」として注目されているのが免疫療法についてもご紹介しました。免疫とは、からだのなかに侵入した異物を排除するために、誰もが生まれながらに備えている能力で、この能力を高めてがんの治療を目的とした免疫療法を特に「がん免疫療法」と言いましたね。
免疫療法は、自分自身の持つ免疫力を使った治療なので、体力があって免疫の働きも衰えていない病気の初期段階で活用すると、より高い効果をあげることも知られており、今後の研究にも期待ができます。
大腸がん手術の後の食事では、きっと家族のサポートが必要になります。家族みんなで支え合って患者さんをサポートして乗り越えましょう。
参考文献:
・手術後の食事(胃、大腸)(国立がん研究センター)
https://ganjoho.jp/public/support/dietarylife/postoperative.html
・日本人の食事摂取基準(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
・1日1800キロカロリーの参考メニュー(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/fs/diet/nutrition/1800menu.html

医療ライター。