大腸がんと診断されたあと、治療を進める上で大切なことは、自分のがんはどれくらい広がっているのか、がんの進行状態を知ることです。がんの状態を知ることで、どの治療を選択するのが良いかわかるようになります。がんがどれくらい広がっている状態なのかという進行程度は病期といいます。病期は「ステージ」と表されます。
自分のがんの状態やステージを理解していますか?ステージの分類と、ステージ別の大腸がんの状態や治療について詳しく説明していきます。
目次
大腸がんのステージを分類する基準とは何か
大腸がんの進行度を表す「ステージ」が決定されるポイントは、がんの転移状態です。どこに、どのように転移している状態なのか、次の3つの転移状態によって決定されます。
どれくらいの深さに入り込んでいるか
がん細胞が大腸の壁の中のどのあたりまで入り込んでいるか。大腸がんの初期は、がん細胞は粘膜に留まっています。しかし、がんが進行すると粘膜を通りこし大腸の壁に入り込みます。
がん細胞の入り込んでいる深さが深いほど、がんが進行している状態であることがわかります。この基準は深達度と呼ばれています。
リンパ節に転移しているか
リンパ節とは、リンパ管同士が繋がる部分のことです。このリンパ管とは、体内から排出された物質を運ぶ液体である、リンパ液が通る管のことを呼びます。
少し混乱するかもしれませんが、リンパ液が流れる管を、リンパ管といい、リンパ管同士が交わる部分がリンパ節です。
がんがリンパ節に転移すると、リンパ液によって運ばれるため全身に転移する恐れがあります。更に離れたリンパ節へと転移していく危険性もあります。リンパ節にがんが転移すると、全身へ影響を及ぼす段階であるかがわかります。
ほかの臓器へ転移しているか
大腸にできたがん細胞が、ほかの臓器に移り発育することを転移といいます。大腸がんが進むと血液やリンパ液などを経て肺や肝臓などのほかの臓器へ転移することがあります。
転移した臓器は、がん細胞の異常な増殖により本来の機能を失っていきます。
ステージ別がんの状態について
進行程度を示すステージは、前章で上げた3つの基準をもとに分類されます。ステージは0期からⅣ期までの5段階で表されます。
0期は進行度が最も低い状態です。0期に近ければ近いほど、まだそれほど進行していない初期の段階だといえ、反対に進行度が最も高いステージⅣに近づくほど進行しているといえます。
それぞれの段階で、がんはどのような状態なのか説明していきます。
0期 粘膜の中に留まっている
Ⅰ期 大腸の壁 筋肉の層(固定筋層)で留まっている
Ⅱ期 大腸の壁 筋肉の層(固定筋層)を越えて周囲に広がっている
Ⅲa期 3個以下のリンパ節に転移している
Ⅲb期 4個以上のリンパ節に転移している
Ⅳ期 肝臓や腹膜など離れた臓器にまで転移している(遠隔転移)
リンパ節や、他の臓器へ転移するほどがんが進んでいる状態であることがわかります。
大腸がんが転移する仕組み
大腸がんも、他のがんと同様に、進行すると他の臓器へ転移します。なぜがんは転移してしまうのでしょうか?転移するには3つの要因があります。
リンパ行性転移
がん細胞がリンパ管を伝って転移することです。原発巣に近いリンパ節に転移するとそこから遠く離れたリンパ節にも転移してしまいます。
血行性転移
がん細胞が腸の細い静脈に侵入し、血液の流れに乗って他の臓器へ転移することです。
大腸の血液は初めに肝臓に集まります。このことから、肝臓への転移が多い傾向があります。
そのほか、肺や脳、骨など全身の臓器へ血行性転移することがあります。
腹膜播種
がん細胞が、大腸の壁を突き破って外に顔を出し、お腹の中に種をまくように散らばって生じる転移です。
大腸がんステージ別の5年生存率
5年生存率とは、がんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合です。大腸がんに限らず、がん治療効果の目安として5年生存率が良く使われます。
この大腸がんの5年生存率について見ていきましょう。
0期 94%
Ⅰ期 91.6%
Ⅱ期 84.8%
Ⅲa期 77.7%
Ⅲb期 60%
Ⅳ期 18.8%
早期である、0期であるほど生存率が高いことがわかります。生存率は1つの目安です。がんが進んでいる状態であっても5年以上生存している人は多くいます。
自分のステージと生存率を知った上で、どのような治療に進むかを考えていきましょう。
ステージ別の治療法について
大腸がんはどのような治療方法があるのでしょうか?この章では、ステージ別の治療法について説明します。
・0期はごく浅い粘膜に留まっている状態です。この状態は早期がんといわれます。前章で見たように5年生存率の高い状態です。生存率の高い理由として、内視鏡治療で切除するだけで取り除くことができるからです。
内視鏡治療は開腹せずに治療ができます。
・Ⅰ期も早期がんです。がんの状態により、治療は多岐にわたります。
大腸の壁にがんが入り込んでいない、軽度なものは内視鏡治療ができます。しかし、大腸の壁に深く入り込んでいると、リンパ節転移の可能性があります。
その場合は、開腹により手術をする場合があります。
・Ⅱ期、Ⅲ期は進行がんの状態です。内視鏡では取り切ることができない状態であるため、回復手術により切除します。
手術で取り切ることができなかった場合、再発防止のために術後に抗がん剤を使用することもあります。
・Ⅳ期は、他の臓器に転移している段階です。条件によっては手術も検討されますが、基本的に手術治療によりがんを切除することはできません。がんが大きすぎるため、切除すると臓器への負担も大きくなるからです。
この段階では、がんの増殖を抑えるなどの目的で放射線療法や化学療法、苦痛を和らげるための緩和ケアなどが行われます。
大腸癌の治療方法について
それぞれの治療方法はどのように行われるのか、詳しくみていきましょう。
内視鏡治療とは
先端に小型カメラのついた細い管状の機械が内視鏡です。肛門から挿入し、カメラで腸の内部映すことで画面を見ながら治療を行うことができます。ポリープなどが見つかれば手元で操作をして、治療をすることができます。内視鏡を用いた治療法は、腫瘍の大きさや形によって異なります。この内視鏡を用いた治療法は3つの方法があります。
大腸がんが早期である、ステージ0(がんが大腸の粘膜に留まっている状態)、ステージⅠ(粘膜より下の層に入り込んでいても、比較的浅い状態)が対象となります。
では、3つの方法はどのようなものがあるのか見ていきましょう。
・ポリペクトミー
キノコのように隆起している腫瘍に対する治療です。スネアと呼ばれる金属の輪で根元をしばります。電流を流し、切除するという方法です。この方法は、入院することなく外科治療で終了します。
・内視鏡的粘膜切除術(EMR)
平らな形をした2㎝未満の腫瘍にたいして行われる治療方法です。内視鏡の先端から、注射針を出します。腫瘍の奥に生理食塩水などを注入して、腫瘍を盛り上げます。盛り上げたあと、ポリペクトミーと同様の方法で切除します。
この方法は、入院が必要になる場合があります。
・内視鏡的粘膜下層剥離術
腫瘍の下に、薬液を注入して、腫瘍を電気メスで剥ぎとる方法です。ポリペクトミーやEMRでは切除することが難しい、2㎝以上、5㎝未満の大きな腫瘍を切除することができます。
この治療は、数日間の入院が必要とります。
・手術(外科療法)
がん細胞のある大腸の病変部位、腸間膜、リンパ節を一緒に切除します。リンパ節も切除するのは、再発を防止するためです。術後に、抗がん剤、またはワクチン投与、もしくは両方を行うことがあります。これは再発を防止するためです。
・放射線治療
腫瘍の成長を遅らせるため、または縮小させるために放射線を使用する治療方法です。放射線治療は、がんの局所療法です。そのため、全身への影響が少ない治療法だといわれています。
・化学療法
化学療法とは、抗がん剤を用いて治療することをいいます。大きくなりすぎた大腸がんや、ほかの臓器に転移したがんが手術では切除できなかった際は化学療法を行います。がん細胞の増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療法です。
・免疫療法
ワクチン投与により免疫を上げる方法です。免疫が下がっている状態では、がん細胞と闘うことができずにがん細胞が増殖していきます。免疫が上がると、がん細胞の増殖を抑えるように、闘うことができます。免疫療法の特徴として、どの方法とも併用することができます。
大腸がんの再発のおそれ
大腸がんが、再発しないためには手術で取りきることです。しかし、目に見えないがん細胞が残っていることもあります。その小さながん細胞が大きくなってしまうことを再発といいます。大腸がんの再発には次のような3つのパターンがあります。
局所再発
がんがもともとあった場所(局所)に起こる再発のことです。直腸がんの場合、骨盤が腸を取り囲んでいるために、十分に取り除くことが難しい場合があります。
そのため、局所にがん細胞が残って局所再発が起こる場合があります。
遠隔転移
大腸に発生したがんが、肝臓、肺、脳、骨など離れた臓器に飛び火することがあります。そのがんが大きくなることを遠隔転移といいます。転移した場所に関わらず、大腸がんとして治療されます。
腹膜播種
腹膜は、大腸の表面を覆う膜のことです。腹膜は、腹部全体を覆っています。そのため、大腸にできたがんが腹膜にこぼれると、腹部のいたるところに散らばってしまいます。
再発を予防するためにできること
免疫が下がっていると、がん細胞の増殖を抑えることができません。そのため、がん細胞が増殖し、大きくなり再発してしまうことがあります。がんを再発させないためには免疫を上げることが大切です。ワクチンを投与して、免疫を上げるという選択もあります。
まとめ
大腸がんは、ステージが0に近い早期の状態であれば、内視鏡で取り除くことができます。開腹手術をせずに治療できるため、体への負担も少なくすむことが特徴です。
早期発見のために、定期的な検査を行うことが大切です。
ステージが分類されるポイントは3つです。
・大腸がんがどれくらいの深さまで入り込んでいるのか
・リンパ節に転移はあるか
・ほかの臓器に転移はあるか
自分のがんの進行状態からは目を背けたくなるかもしれません。しかし、冷静に進行状態であるステージを知ることで、適した治療に進むことができるのです。
医療ライター。