精巣とは男性のみが持つ臓器ですが、初めは分かりにくい症状で見逃されがちなのが現状です。精巣がんとはどのようながんで、どのような初期症状があるのか見ていきましょう。
目次
精巣がんとは
精巣にある精子細胞ががんかしたものを精巣がんと呼びます。
精巣がんにかかる割合は10万人に1人程度とされています。罹患率はほとんど無いにもかかわらず、このがんには他のがんと比較して、20歳代後半から30歳代にかけて発症がピークになっており、20~30歳代の男性では、最もかかる数が多い固形がんと言われています。
年齢別にみると5歳以下と20歳代後半から30歳代にかけて2つのピークがあり、40歳未満では全割合の約3分の2を占めます。精巣がんによる死亡が、がんで亡くなる人全体に占める割合は0.1%未満と少なく、比較的予後が良い部類のがんです。日本では男性100万人あたり、10〜15人程度と少ないのですが、年々増加傾向にあります。欧州では日本の2倍以上であり、アメリカでは高い傾向があります。
精巣がんの危険因子
精巣がんのはっきりとした原因はまだ分かっていませんが、リスク因子として家族に精巣がんにかかった人がいる、乳幼児期に精巣が陰嚢内に納まっていない状態、があることが挙げられます。また、精液検査で異常のある不妊症の可能性のある男性で精巣がんのリスクが高いと言われています。
症状
陰嚢の中身の腫れや硬さの変化を訴えて見つかることがほとんどといわれています。痛みのないのが3分の2、3分の1の患者は軽い痛みや違和感などを感じて受診することが多いようです。この軽い痛みや違和感は非常に分かりづらく、多くの場合発熱も強い痛みもないため、受診するまででもないと言って軽視されがちです。
確かに陰嚢水腫、精液瘤、鼠径ヘルニアといった混同されやすい疾患もありますが、気づいたときには進行していた、ということも大いにあります。しかも精巣がんは短期で転移するのでとても恐ろしいがんの一つです。
もし別の部位である腹部リンパ節などに転移があれば腹痛がありますし、肺への転移では息切れや血痰が症状として出てきます。
診断
①最初に陰嚢内のしこりについて確認します。水がたまった状態をしこりとして感じることもあり、この水腫とがんかを判別するために超音波検査を行うこともあります。
②腫瘍マーカー
腫瘍マーカーとは、腫瘍の種類や性質を知るための目安となるものです。精巣がんの診断では、腫瘍マーカーが重要な役割を果たします。代表的な精巣がんの腫瘍マーカーには、AFP、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)hCG-β、LDHなどがあります。まずこの腫瘍マーカーで診断が確定した後、転移がないかどうかも確認します。治療効果の判定や治療後の経過の観察にも使用されます。ただし全てのタイプの腫瘍がマーカーに反応するわけではありません。
③画像診断(超音波、エコー、MRI検査)
画像診断では腫瘍の広がりや転移があるかないかを検知します。
超音波検査では、陰嚢の表面に超音波を当てて臓器から返ってくる反射の様子を画像にし。精巣の内部を観察します。超音波検査によって腫瘍を確認することケースが多いです。
CT検査は、X線を利用して体の内部を写す検査です。腫瘍の状態、肺やリンパ節などへの転移の有無、周辺の臓器への広がり、を調べることができます。精巣がんは早期の段階で転移することが多いため、非常に重要な検査となります。より詳しい情報を得るために、通常は造影剤を入れながら検査を行います。CT検査で造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、喘息などのアレルギー持ちの方や過去に造影剤のアレルギーを起こした経験のある人は、医師に事前に相談してください。
精巣がんの治療
精巣がんの治療
精巣腫瘍は、病理診断と腫瘍マーカーの値によって、大きくセミノーマと非セミノーマの2つに分類されます。より悪性度が高いのが非セミノーマで、転移もしやすいと言われています。この分類がどちらになるかによって治療方針が異なります。セミノーマと非セミノーマでは放射線の感受性は圧倒的にセミノーマが高く、抗がん剤療法の感受性も異なります。
① 手術
精巣がんは進行が速く、転移のケースが多い特徴があります。組織の型や転移の有無を問わず、できるだけ迅速に精巣を摘出する手術を行うのが原則です。
精巣がんが疑われる場合には、まず腫瘍があると思われる側の精巣の摘出手術をします。そして、手術で取り出した組織を調べると同時にCTなどの画像診断によって、腫瘍の種類と病期を判断します。
②抗がん剤療法
基本的には転移のないⅠ期でも抗がん剤療法が適用されます。しかし、転移のある精巣がんであっても、抗がん剤療は効果を発揮します。一般的にはII期以上の患者でも7割が治るというデータがあり、様々な固形腫瘍の中で最も抗がん剤の治療効果が高いと見なされています。
抗がん剤療法を中心とした集学的な治療により根治が期待できる数少ないがんの1つです。
② 放射線治療
腫瘍に放射線を当て、細胞DNAにダメージを与え腫瘍を小さくしたり消滅させる治療法です。
放射線治療の利点は、手術によって切除することなく、治療効果を期待できることです。臓器をそのまま残すことができ、臓器の働きをがんになる前と同じようにしておけることです。
精巣がんの場合、セミノーマと非セミノーマでは効果に差が出てきます。効果があまり期待できない非セミノーマでは初期段階に放射線治療が選択されることはまずありません。
セミノーマ 非セミノーマ
特に有効 効果があまり期待できない
放射線治療の副作用はひどいものはほとんどありません。精巣がんのセミノーマに対しては放射線の感受性がとても高いため、他のがんに対する放射線量よりも低く設定されています。放射線が照射された部位に皮膚炎・粘膜炎などや、下痢、直腸炎や膀胱炎などがあります。また、すぐ副作用が出なくても何年後かに突然発生することもあるようです。しかし、若年層に多い腫瘍のため、二次がん発生など長期的な問題にも注意が必要です。
【補足】放射線療法と転移の関係について
放射線を予防的に照射した場合と、何もしない場合とを比べると、放射線照射をしたほうが再発率は断然低いというデータがあります。
精巣がんで特に懸念されるのが後腹膜リンパ節への転移です。患者の約2割に転移すると言われています。アメリカでは、転移を予防するために放射線の照射が行われるのが一般的ですが、日本では一般的ではないそうです。
手術後の射精障害について
手術の範囲によって状況が異なり、必ず射精障害が発生するとは言えませんが、もし後腹膜リンパ節郭清術を受けた場合は逆行性射精という障害が生じることがあります。逆行性射精とは、射精したときの感覚に変化はないにも関わらず精液が外に出てこない状態です。病気の広がり度合いにより、射精機能を残すような神経温存手術をすることもできます。また、逆行性射精があっても、影響のない精巣の機能が正常であれば、精巣から直接精子を採り出すことができるため、妊娠は不可能ではありません。病気を完治させるために必要な手術と逆行性射精のリスクについて、担当医から十分な説明を受け、パートナーとも話し合いましょう。
両側の精巣を切除する場合や、手術後に放射線治療や抗がん剤療法を行う場合は、精子の凍結保存も推奨されています。
抗がん剤の副作用
精巣がんに対する抗がん剤療法は、根治を目指して実施する治療です。比較的大量の抗がん剤を使用することが多いです。そのため治療中の副作用は、他のがんにおける治療と比べるとかなり強い部類に入ります。しかし現在では、抗がん剤の副作用による苦痛を軽くする対策や、対処のための薬剤の使用が実施されるようになり、以前のように深刻な副作用が発生することは減少しています。また、多くの副作用は、治療を終了あるいは中止することによって改善します。副作用が著しい場合には、治療薬の変更、治療の休止、中断などを検討することもあります。
精巣がんの早期発見について
精巣に痛みを感じたとしても、「我慢していればそのうち治るだろう」と思ったり、気恥ずかしさから病院にかかることをためらったりするかもしれません。しかし、今回ご紹介したとおり、精巣に痛みをともなう病気は、適切な処置をしないまま放置してしまうと、男性不妊症につながるリスクが高いものばかりです。将来子供が欲しいと思っている人は特に神経質になってもし過ぎることはありません。少しでも精巣に痛みを感じたら早めに泌尿器科を受診してください。
前立腺がんの治療を支える免疫療法
免疫療法という言葉を聞いたことがありますか?
精巣がんには抗がん剤を多く使用しますが、抗がん剤は耐え難い副作用の辛さだけでなくDNAの細胞をも破壊してしまうほどの力があります。
がんは免疫力が低下した結果起こる病気です。抗がん剤など免疫を強く傷つけてしまう療法は、がんに対応できる体作りを不可能にします。
免疫療法は人間の体に本来備わっている病気を防ぐ力を最大限に引き出していく治療法です。
がん細胞は元々正常細胞が変化したもののため、免疫力が十分に働いてくれれば、人体に悪影響を及ぼすほどまでに大きくなるはずがありません。
生まれてくるがん細胞の数や増殖速度よりもそれらを殺傷する免疫力の数と力が強ければ、がんを押さえ込むことができるという理論です。
免疫療法は自分の細胞を使っていく療法のためほとんど副作用がないのも利点です。
前立腺がんは20代や30代も多く発症するがんのため、抗がん剤に耐えうる年齢と見なされて大量の抗がん剤が投与されます。また先ほども述べたように前立腺がんは最も効果が高い治療法が抗がん剤のため適用されることが多いです。
抗がん剤に多く見受けられる深刻な副作用は激しい吐き気と嘔吐ですが、その症状を抑えるために抗がん剤を点滴する前に「制吐剤」の投与をしたり、まだ吐き気を感じていなくても「内服薬」を処方します。
抗がん剤を大量に投与する治療においては、このような副作用に対応する薬の量も通常より多くなります。それにより免疫力もますます落ちていく可能性があります。
いくら若年だからといっても健康な細胞に傷がついてしまっては、がんは治ったものの体力が劇的に落ちてしまうなどの体質変化、別の疾患にかかるリスクも出てきます。
特に気をつけなければいけないのが不妊の問題です。若年の患者の場合抗がん剤法後は少なくとも2年は正常な精子を作ることが不可能であるとされ、特に大量の抗がん剤を使用した場合は、造精機能が完全に失われる場合もあります。
もし抗がん剤を使用することになったら将来の自分の体のことも考えて免疫療法を取り入れるのも良いでしょう。
AYA世代の精巣がん
AYA世代とはAdolescent and Young Adult, AYAの略語で15~30歳前後の思春期や若年成人患者のことを指します。AYA世代に対応するがん診療の専門家が少なく、特にわが国では未だAYA世代に発生するがんの現状が正確に把握されていません。AYA世代ががんと診断されたときの代表的な悩みは30代後半以降の成人の場合と異なり、通学・通勤、外見の変化に対するストレス、家族というよりも仲間、妊娠への不安、将来への不安などが主です。
特に妊娠への不安は治療が開始する段階から、精子の凍結保存を視野にいれるべきでしょう。精巣は抗がん剤や放射線に対する反応が高い組織のため、将来子供が欲しいと思うのであれば検討が必要です。
さいごに
精巣がんは肺転移巣や後腹膜の大きなリンパ節転移巣が先に見つかり、その原発巣の検索過程で発見されることがしばしば経験されます。ですが、多くの精巣がんは計画された治療を行うことにより、完全に乗り越えるケースも少なくありません。たとえ進行性の精巣がんであると診断されても、途中で治療を受けることを決して諦めないことが大切です。

医療ライター。
医薬系会社にて医療事務に従事する傍らで、美容系サイトにて痩身美容(脂肪吸引など)ついて執筆するフリーライター。
主に得意分野は、がんや免疫療法、経営者インタビュー記事作成など。