ここでは悪性リンパ腫への理解を深めていただき、どのような治療法があるかなどを中心にご紹介いたします。
目次
悪性リンパ腫の種類・症状・診断
悪性リンパ腫とステージ
悪性リンパ腫は、血液細胞に発生するがんで、白血球の一種であるリンパ球ががん化した疾患です。血液中、身体中をめぐっているリンパ球という細胞が異常に増え、首やわきの下のリンパ節の腫れやしこりができる病気です。 悪性リンパ腫になる原因はまだはっきりと分かっていませんが、ウイルス感染症や免疫不全に関係することが指摘されています。欧米に多いホジキンリンパ腫は、早期に治療すれば比較的悪性度が低いのですが、日本人の悪性リンパ腫は9割が非ホジキンリンパ腫ですが、非ホジキンリンパ腫は進行すると骨や脳まで転移するだけでなく、同じ血液のがんである白血病に移行することもある病気です。中悪性度、高悪性度のリンパ腫は進行が早いため十分な注意と適切な治療が必要です。
それぞれのステージは下記のように定められており、どのステージに分類されるかによって治療方針が異なるため、病変部から組織を採取する生検や、顕微鏡による病理学的検査により診断を行います。
Ⅰ期 | リンパ腫がリンパ節内1か所のみに留まっている、もしくはリンパ以外の臓器でも1カ所に留まっている。 |
Ⅱ期 | リンパ腫がリンパ節内2か所あるが上半身または下半身どちらかに偏って発生している。 |
Ⅲ期 |
リンパ腫がリンパ節内に2か所あるが上半身または下半身のそれぞれにある状態 |
Ⅳ期 | リンパ内だけでなくリンパ外の臓器にも広まっている状態 |
悪性リンパ腫の分類とそれぞれの5年生存率
悪性リンパ腫はがん細胞の形態や性質によって約70種類に細かく分類されていますが、主にはホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つに分類されます。
【ホジキンリンパ腫】
ホジキンリンパ腫は日本では少なく、悪性リンパ腫のうちの約1割です。ホジキンリンパ腫は非ホジキンリンパ腫に比べ、治癒する可能性の高い病気です。5年生存率はⅠ期が91.4%、Ⅱ期が84.6%、Ⅲ期が65.3%、Ⅳ期で44.7%、症例の平均的な5年生存率は76.0%とされています。
【非ホジキンリンパ腫】
日本では、悪性リンパ腫のうち約9割が非ホジキンリンパ腫です。ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫とも全身に広がる可能性がありますが、非ホジキンリンパ腫の方が全身への広がりの可能性が高いと言われています。
Ⅰ期の5年生存率が86.7%、Ⅱ期が74.3%、Ⅲ期が64.0%、Ⅳ期が54.6%とされており、全症例の平均5年生存率は68.3%とされています。
※統計では高齢者よりも64歳以下の若い年代の方が生存率は高くなっています。また、男性よりも女性の方が生存率は高くなると言われています。
悪性リンパ腫の症状
悪性リンパ腫になると下記のような症状が起こります。
・リンパ節の多い首、わきの下、足の付け根など外から触れて分かる部分が悪性リンパ腫ができる代表的な場所です。痛みを伴うことはほとんどないしこりとしてあらわれます。大きさはだいたい1.5センチ以上で、数週~数カ月にかけ持続的に増大し、病状が進むに従って全身的な症状がみられるようになります。
・全身的症状としては発熱、体重の減少、寝汗の過多
・体のかゆみや皮膚の発疹
・腫瘤による気道や血管などの圧迫による気道閉塞、血流障害
・原因不明の熱(微熱、38度以上の熱)
・感染症を起こしやすい(免疫力低下のため)
※まれではありますが、リンパ節以外が腫れていても悪性リンパ腫の可能性があります。
悪性リンパ腫の原因
先ほども述べたように原因はまだ明らかではありませんが、細胞内の遺伝子に変異が加わりがん遺伝子が活性化することで発症するという見解が有力のようです。一部にはウイルス感染症が関連することと、免疫不全者に多いことが分かっています。
悪性リンパ腫はホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つに分かれますが、それぞれ考えられる原因が下記のようにことなります。
【ホジキンリンパ腫の原因】
家族からの遺伝や、EBV(Epstein-Barr Virus)というウィルスの感染が考えられています。EBV感染者がホジキンリンパ腫にかかる確率は、そうでない方の4倍高いとされており、日本の患者の約5割がEBVの感染者であると言われています。
【非ホジキンリンパ腫の原因】
日本人に多く起こる非ホジキンリンパ腫の原因には下記が挙げられます。
- 免疫不全: 先天性、後天性の免疫不全である患者や、免疫不全を引き起こす薬剤による治療を受けたことがある場合、非ホジキンリンパ腫のリスクが増大するということが分かっています。
- 細菌感染:ヘリコバクター・ピロリ菌と非ホジキンリンパ腫の感染の関係性が指摘されています。日本での悪性腫瘍は胃に発生しやすいことから研究が進められています。
- ウイルス感染: C型肝炎ウイルスの感染やヒトT細胞白血病ウイルス感染も関係していると報告されています。
- 農薬および化学物質: 除草剤、害虫駆除剤、肥料を職業的に扱っている作業者と非ホジキンリンパ腫の発生も指摘されています。
診断
悪性リンパ腫の診断では主に生検というメスで切って顕微鏡で確認することが行われます。外部から触れることのできない部位の場合は、胃カメラや大腸鏡、超音波やエコーを使用し、針を刺して組織を取ることもあります。どれほど他の部位に広がっているかを確認するためには骨髄検査、髄液検査という検査を行います。これは骨の中の骨髄という血液を作っている箇所や、脳をとりまいている髄液という液体にリンパ腫の細胞が存在するかを調べます。
主な治療法と免疫療法
治療法
固形がんではない血液がんは手術ができません。ステージにより治療法は変わり、放射線療法は病期がI期からII期で適応されます。III期からIV期、進行性が広がっている場合は、微細な病変にも行き渡る化学療法薬や分子標的薬による全身薬物療法を選択します。
- 放射線療法: 腫瘍の成長を遅らせたり、縮小させたりするために放射線を使用する方法です。がんに侵された臓器の機能と形態の温存が可能で、局所療法であるため全身的な影響が少なく、高齢者にも適応できる患者に優しい治療法と言えます。
- 化学療法:抗がん剤を利用してがん細胞の増殖を抑え、がん細胞を破壊します。全身のがん細胞を破壊し、体の中のどこにがん細胞があっても攻撃することができるのがメリットです。悪性リンパ腫では細胞障害性の抗がん剤を複数組み合わせる併用化学療法と、特定分子に結合する分子標的薬を追加する場合があります。デメリットとしては、人によっては苦痛を伴うような副作用が出ることが挙げられます。悪性リンパ腫で化学療法を受けている期間は注意が必要です。骨髄抑制といって抗がん剤の影響で血液中の赤血球・白血球・血小板が一時的に減り、肺炎などの感染症を起こしやすくなります。帰宅時のうがいや手洗いを欠かさずに行うことが大事です。
- 造血幹細胞移植:造血幹細胞移植とは、全身への放射線治療や大量の抗がん剤の投与を行った後に、骨髄機能回復のために事前採取した造血幹細胞を投与する治療です。標準的な化学療法や放射線治療を行っても再発する懸念がある場合や再発した場合などに選択されます。
免疫療法
悪性リンパ腫は免疫の不全によって引き起こされる可能性の高い疾患です。免疫療法はがんの治療において手術、放射線療法、化学療法のサポートの役割をします。がんは概して免疫力の低下が原因となり、悪性リンパ腫は免疫不全から起こるため同様のことが言えます。悪性リンパ腫の治療は放射線療法、化学療法、分子標的療法が主流ですが、これらは副作用がある点がデメリットになってきます。ですが、免疫療法は人間の体に本来備わっている病気を防ぐ力を最大限に引き出していくため副作用がほとんどありません。免疫療法はどの治療法とも組み合わせが可能で、副作用を伴う治療法に対して副作用の緩和の役割もあります。免疫に元々疾患がある方はがんの予防のためにも効果的ですし、一度がんやリンパ腫にかかった方は再発や転移防止のために期待ができます。現在ではまだ認知度は低いですが、保険適用も始まってきており3大療法に次ぐ治療として注目されています。
食事療法
悪性リンパ腫になる要因の一つに生活習慣があります。飲酒、肥満、高血圧です。そのため、食事も免疫療法の一つであると意識して栄養をバランスよく取り入れて、積極的に高エネルギー食品を摂取して体力をつけていきましょう。抗がん剤療法をする患者はがんと闘っていくので、体重を増やしていくくらいの意識でよいでしょう。
放射線療法や抗がん剤療法を受けると白血球が下がりますが免疫療法ではこれを再び上げることが可能と言われています。その他、がんになりにくくさせる方法、進行させない方法としては直射日光を避け、ストレスをためず、ビタミンなどの抗酸化作用のある栄養素を摂ることです。
さいごに
悪性リンパ腫は早期発見が出来れば治癒が大いに見込める可能性のある疾患です。他のがんに比べて手術ができないこと、主流の治療法には副作用が出るものがほとんどです。免疫の不全が原因になることから免疫療法を併用することで辛い治療中の生活の質を向上させることができるでしょう。もし治療中に副作用が辛いと感じたら、主治医や看護師に、治療法の一つとして免疫療法も視野に入れるよう相談してみてはいかがでしょうか。
ライター 吉田あや

医療ライター。
医薬系会社にて医療事務に従事する傍らで、美容系サイトにて痩身美容(脂肪吸引など)ついて執筆するフリーライター。
主に得意分野は、がんや免疫療法、経営者インタビュー記事作成など。