腹腔内には、胃、腸、肝臓、胆嚢(たんのう)、膵臓(すいぞう)があり、それらの臓器にがんができて進行していくと、腹膜転移を起こすことがあります。腹膜転移を起こすと非常に予後が悪くなる事が知られています。腹膜とは一体どのようなものなのか、そして腹膜転移についてこちらにまとめていきます。
目次
腹膜とはどのようなものなのか?
腹腔の内面と、腹腔内に突出する内臓の表面をおおう漿膜(しょうまく)で、壁側腹膜とこれが反転して内臓表面をおおう臓側腹膜に分れる。胃、腸、肝臓、胆嚢、膵臓などの腹腔に存在する臓器の薄い膜が臓側腹膜です。総面積は約 1.7m2で、ほぼ体表面積に等しく、非常に大きな表面積を持つ事が知られています。腹膜は半透膜になっており、細い血管が網の目状に無数に走っています。
腹膜の機能には吸収、濾出(ろしゅつ)ならびに癒着作用があります。吸収作用の能率はきわめて高く、12~30時間で体重と同量の液体を吸収する事ができると言われています。正常な状態では腹膜液はごく少量ですが、肝静脈系のうっ滞があると大量の腹水がたまります。炎症が起こると線維素を出し癒着を起して、炎症の拡大を防止する働きがあります。
旭川医科大学人泌尿器外科学講座http://www.asahikawa-med.ac.jp/dept/mc/urol/figure.html
腹膜転移・腹膜播種の原因
「播種」という言葉の意味は、「細かい点が無造作に無秩序にばら撒かれた状態」を言います。腹膜播種は消化管の粘膜から発生したがんが消化管の壁を突き破っておなかの中にばら撒かれた状態で、がん細胞がこの腹膜に広範囲にわたり転移した状態になります。分化度が低い、すなわち悪性度の高い種類のがんに多くみられます。悪名高いスキルス胃がんはその代表で、卵巣がん、日本では少ないのですが大腸がんでもみられます。肉眼的にとらえられないようなほんのわずかな細胞がこぼれただけでも手術後に腹膜再発を来します。
腹膜転移の余命
腹膜に転移したがん細胞は、腹腔内にばら撒かれるように点在し、その場所で増殖を始めます。がん細胞が大きくなってくると、腹腔内に存在する臓器の機能に影響を与えてしまうため、全身状態が悪くなります。そのような状態はがんの末期と言えるでしょう。
通常、がんの末期になりますと、余命は2ヶ月から半年位と言われますが、近年開発され実用化されている抗がん剤の中には、腹膜播種に非常に有効とされるものも出てきました。特に胃がんの治療に有効とされるティーエスワンや静脈注射からも腹腔内への移行があるタキサン系抗がん剤などです。
腹膜播種の治療法
腹膜播種は初期に症状がないことが多く、またCT検査や超音波検査などの画像診断でも気付きにくいのが特徴です。そのため手術の際にはじめて肉眼で確認されることも多いのが現状です。
進行すると腹膜の機能が低下し水が溜まったり、腸管と腹壁が癒着する事により腹部の激痛や吐き気・嘔吐などの症状が出て、やがて腸閉塞などの症状が現れることが多いです。
根治は難しいがんになりますが、治療法はあるのです。以下にご紹介します。
手術療法
広範囲に、腹膜切除を行う方法で、非常に高度な技術を要するもので、日本では数施設でのみ対応している方法です。
化学療法(抗がん剤治療)
抗がん剤には内服薬と注射薬、経皮吸収型の薬剤(貼り薬)などがあり、患者様の状態に合わせて、また症状に合わせて治療効果の高いものを選択します。また、腹腔内に直接抗がん剤を投与する腹腔ポートを留置し抗がん剤を投与する方法もあります。一般的な抗がん剤投与と異なり濃度の高い抗がん剤を腹腔内へ局所的に投与することが可能です。一般的な抗がん剤の投与方法である、飲み薬や点滴などと違い、がん細胞に直接投与することができるので、効果が期待できます。
腹膜転移を起こすような末期のがんは、全身療法である抗がん剤治療を選択することが多く、その場合は原発巣のがんに効果を発揮する抗がん剤を選んで治療することが多いです。
温熱療法
がん細胞が熱に弱いという事を利用し、腫瘍を縮小させたり、死滅させる事を目的とした治療法です。
がん細胞は43℃で死滅していくと言われ、特殊な装置で体内の深部にある腫瘍を温める事により、増殖を抑え、がん細胞を死滅させていきます。
また、免疫細胞が最も活性化できる温度帯でもある事から、免疫力の活性によるがん細胞の縮小・死滅も期待できます。
腹腔内温熱化学療法(HIPEC)
HIPECは、一般的には治療効果を高める為に、腹腔内のがん細胞 (主に腹膜転移)をできるだけ取り除いた後に行います。腹腔内に42.5℃~43℃の生食を満たし温めます。引き続いて、抗がん剤を付加した42.5℃~43℃の生理食塩水を体外式のポンプを使って出し入れしながら、抗がん剤が隅々までいきわたる様、循環させます。30分から60分間循環した後、腹腔内を生理食塩水で洗い流して、閉腹します。
がん細胞が死滅するには42℃以上の熱が必要であるといわれていること、抗がん剤の腹膜から届く距離が温めることで深くなること、点滴で行うよりも腹膜側から吸収された方が、腹膜転移に対しては有効であることがHIPECのメリットです。
HIPECは日本では、現在保険適応外の治療法になってますが、効果が得られる治療法として注目されています。
免疫療法
免疫療法は、全身療法のひとつで、がん細胞を攻撃するリンパ球を体外で活性化して体内に戻す方法と、体内の免疫細胞を活性化する方法があります。
抗がん剤のように正常な細胞まで攻撃することがない為、比較的副作用も少なく、患者様にとって負担の少ない治療法です。
抗がん剤治療の副作用で免疫力が落ちている時は、免疫療法を併用することによって感染症のリスクを抑えることが出来ます。
術後の再発防止にも非常に効果的ですし、他の治療法との組み合わせる事で治療効果を発揮します。
まとめ
腹膜転移は、腹腔内の臓器に出来たがん細胞が増殖し、臓器の外側にまで浸潤することで、腹膜内へがん細胞がばら撒かれたように転移する「腹膜播種」という状態です。非常に治療が難しいですが、現在は新しい治療法である「HIPEC」が開発されております。しかしながら現在は保険診療適応外になっており、対応している医療機関も限られています。また、新しい抗がん剤も開発され日々治療は進化しています。
様々な治療がある事を理解し、治療法の選択にお役立てください。
三重大学大学院医学系研究科
http://www.medic.mie-u.ac.jp/geka2/patient/hipec.html
京阪PDネットワーク
http://www7.kmu.ac.jp/keihanpd/pd_basic_knowledge/4-4/
Find Med
https://www.findmed.jp/topics/cancer/8999
国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html

医療ライター・臨床検査技師。
医療の現場での経験を生かして、がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。