全国統計では肺がん、大腸がん、胃がんの次に死因の第4位となっています。
わが国の膵臓がんは近年増加傾向にあり、毎年3万人以上の方が膵臓がんで亡くなっています。
膵臓がんは早期に診断することが困難で、がんの種類の中でも最も見つかりにくいがんとされています。
また、膵臓周囲だけでは遠くの器官にも転移します。
治療では化学療法や放射線治療が効きにくいことから膵臓がんに罹る患者数と膵臓がんで死亡する患者数がほぼ同じで、難治性のがんとみなされています。
目次
膵臓の働きと膵臓がん
膵臓とは
膵臓は、胃の後ろにあり、長さ約20cmの左右に細長い臓器のことです。
本人側からみて右側の膨らんでいる部分は膵頭部と呼び、十二指腸に囲まれています。
左側の幅が狭くなっている部分は膵尾部と呼び、脾臓に接しています。
罹患率と生存率
膵臓がんと新たに診断される人数は、男性では年間10万人あたり約29.1人、女性では1年間に10万人あたり約25.5人です。
また、高齢になるほど多くなります
膵臓がんのステージ別5年生存率データは下記の通りです。
ステージ1 40.5%
ステージ2 18.2%
ステージ3 6.3%
ステージ4 1.6%
膵臓がんは非常に発見されにくく、多くが4期での発見で最も予後が悪いのが特徴です。
1期での生存率も40%程度で2期でも18%、以降は数%しかありません。
症状
膵臓がんの初期は無症状のことが多いため、早期には極めて発見しにくいがんです。
進行してくると、腹痛、食欲不振、腹部膨満感、黄疸、腰や背中の痛みなどの症状が出ます。
ただし、これらの症状は膵臓がん以外の理由でも起こることがあり、膵臓がんであっても症状が出ないこともあります。
発生リスク
①喫煙
膵臓がんの危険因子として認められているのは喫煙だけです。
日本の膵臓がん発生のうち、喫煙に起因する割合は男性で22%です。
喫煙そのものは膵臓がんの危険性を上昇させますが、喫煙年数、累積喫煙量と膵臓がんの危険性との間には有意な関係は認められていません。
②飲酒
飲酒が膵臓がんの危険率を増加させるとする疫学的根拠は不十分ですが、飲酒は慢性膵炎の原因であり、慢性膵炎が膵臓がんの危険因子であることから、飲酒も間接的には膵臓がんの危険因子になりうると考えられます。
③コーヒー
25年ほど前にコーヒー飲用により膵臓がんの危険率が上昇することが報告されましたが、コーヒー愛飲家は喫煙者であることも多く、喫煙が膵臓がんの危険率を上昇させ、見かけ上コーヒー摂取が膵臓がんの危険率を上昇させるという誤った関連を観察していたと、結論されています。
日本における疫学調査では、1日3杯未満のコーヒー飲用は膵臓がん死亡の危険率を下げる事が分かっており、喫煙者と非喫煙者に分けても同様な結果となっています。
しかし、1日4杯以上のコーヒー飲用で膵臓がん死亡の危険率が有意に上昇し、男性では相対危険度が3.2倍にもなることが報告されています。
④食事要因
膵臓がん発生の30%が食事に起因するとの報告もあり、食事内容は膵臓がん発症に対して大きな影響を与えます。
膵臓がんの危険率を上昇させる食事としては、肉類、特に燻製または加工肉や飽和脂肪酸、さらに血糖を著明に高める食事などが知られています。
一方、膵臓がんの危険率を低下させる食事としては、ビタミンC、食物繊維の摂取などが知られています。
⑤肥満
我が国の疫学研究では肥満と膵臓がんの間には有意な関連は認められていませんが、アメリカではBMIと膵臓がんの危険率は有意な直線的関連があり、肥満に伴って膵臓がんの危険率が上昇し、BMI 30以上では膵臓がんの危険性が男性で1.4倍、女性では1.3倍と報告されています。
肥満に伴い糖尿病の頻度が高くなることが膵臓がんの危険率の上昇に関与していると考えられています。
治療法
手術
膵臓がんの治療においては、手術でがんを切除できるとみなされる場合、手術が推奨されます。
手術ができるかは、CT検査などで「切除可能性分類」と呼ばれるガイドラインに従って、切除可能、
切除可能境界、切除不能の3つに分類されます。
切除可能境界とは、遠くの臓器に転移はないが、がんが主要な血管に広がっている状態です。
下記に手術の種類を挙げていますが、がんの位置や広がりなどを考慮して個別の状況に応じて治療法が検討されます。
① 膵頭十二指腸切除術
膵頭部を中心にがんが広がっている場合、十二指腸、胆管、胆のうを含み膵頭部を切除します。
② 膵体尾部切除術
膵体尾部にがんがある場合、膵臓の体部と尾部を切除します。
通常は脾臓(ひぞう)も摘出されます。切除後に消化器をバイバス手術する必要ありません。
③ 膵全摘術
全体にがんが広がっている場合、膵臓を全て摘出します。
膵臓の機能が失われ、代謝や消化などに障害が生じます。
そのため切除による治癒が期待できない場合は行いません。
④ バイパス手術
切除できない場合でも、十二指腸ががんで圧迫されている場合は、食事のために胃と小腸をつなぐバイパス手術を行うことがあります。
※黄疸や感染に対する治療
膵頭部には胆管が通っていますが、がんができてしまうと胆管が閉塞され、胆汁が正常に流れずに滞留することがあります。
その結果、肝機能障害、黄疸、胆汁に細菌が感染して胆管炎を発症することがあります。
(黄疸とはビリルビンという色素が何らかの原因で血液中に増加し、全身の皮膚や粘膜に過剰に沈着した状態のことです。通常は肝臓の病気がある場合に出る症状です。)
胆管炎は悪寒や発熱の他に、「ショック」と呼ばれる急激な血圧低下を招くことがあるため注意が必要です。
また、黄疸や胆管炎になると手術や化学療法が適応できないこともあります。
溜まった胆汁を排泄するために、細い管を胆道に留置する胆道ドレナージを行うことがあります。
放射線治療
放射線治療の種類には2つあります。
1.放射線治療と化学療法を組み合わせた治療
遠隔転移はしていないものの、がんが主要な血管を巻き込んでいる場合、行われます。
化学療法と組み合わせることによる高い治療効果を期待でき、標準的な治療として推奨されています。
2. 痛みなどの症状緩和を目的とした放射線治療
骨転移による疼痛などの症状を和らげる一つの方法として、実施することがあります。
放射線治療の副作用は放射線の量などによって症状は異なりますが、一般的には、皮膚の色素沈着、吐き気、嘔吐、食欲不振、などです。
稀に胃や腸の粘膜が荒れて出血し、便が黒くなることもあります。
化学療法
化学療法には3つ種類があります。
① 術後補助化学療法
膵臓がんを取り除いた場合でも、一定期間化学療法を受けることにより再発しにくくなる、生存期間が延長することが明らかにされています。
そのため、手術後に化学療法を取り入れることが推奨されています。
② 手術ができない場合や再発した場合の化学療法
手術ができない場合、化学療法によって生存期間を延長したり、症状を和らげたりする効果が認められており、推奨されています。
放射線治療と組み合わせる化学放射線療法と呼ばれるものもあります。
化学療法には副作用があります。
特に、口、消化管、髪の毛、骨髄などの新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、口内炎、下痢、吐き気、脱毛などが起こることがあります。
全身のだるさや、肝臓や腎臓の障害が起こることもあります。
予防と免疫療法
生活習慣の見直し
適度な運動をし、肥満を防いで、喫煙や食生活の改善を心がけることでリスクを減らすことが大切です。
免疫療法
免疫療法は自己の体に備わっている免疫を使い、免疫本来の力を回復させてがんを治療する方法です。
最近では経過が良くない膵臓がんに免疫療法が行われているようです。
まだ試験段階ですが、自らの免疫力を高める治療によって腫瘍を縮小させる効果が認められています。 副作用も少なく、化学療法と併用することもできます。
手術ができない膵臓がんの場合、放射線治療や化学療法と一緒に受けることで、相乗的な効果が期待できます。
免疫療法はがんになる前から予防としても使用することもできますが、末期のがん患者にもストレスの軽減といったQOL(生活の質の向上)の観点から取り入れることも少なくありません。
緩和ケア
膵臓がんは化学療法や放射線治療が効きにくいことから緩和ケアも視野に入れると良いでしょう。
緩和ケア、末期の患者様に対しては無理に化学療法などを行なわず、緩和ケアを優先させることもあります。
緩和ケアとはどのようなケアのことなのでしょう。
WHO(世界保健機関)」では下記のように定義しています。
・患者のQOL(生活の質) の維持向上を目的とし、その人らしく最期まで生活することを支える。
・身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛(人生の意味、生きる意味、死生観に対する悩みなど)の緩和を目的とする
がんと知らされたときの精神的な絶望感、サポートをしているときの精神的・身体的な辛さについても緩和ケア専門の心療士が存在します。
さいごに
治療の選択肢が狭いことと、進行の早い膵臓がんは難治性のがんと見なされています。
少しでも上記に挙げた初期症状があったら病院で検査を受けてみましょう。
もともと膵臓が弱い方は膵臓がんのリスクを考えて生活習慣を見直し免疫療法を予防として取りいれてみることもお勧めします。
医療ライター 吉田あや
医薬系会社にて医療事務に従事する傍らで、
美容系サイトにて痩身美容(脂肪吸引など)ついて執筆するフリーライター。
主に得意分野は、がんや免疫療法、経営者インタビュー記事作成など。

医療ライター。
医薬系会社にて医療事務に従事する傍らで、美容系サイトにて痩身美容(脂肪吸引など)ついて執筆するフリーライター。
主に得意分野は、がんや免疫療法、経営者インタビュー記事作成など。