肺がんでよく見られる骨転移は周囲の血管やリンパ管を通じて、がん細胞の一部が他の臓器に移ります。肺はガス交換のため大量の血液が流入しており、がん細胞が骨に転移しやすいと考えられています。骨に転移した場合、骨そのものに手術はできないため根治が難しいくQOLをいかに低下させないかが重要になります。骨転移するとこのように治療法が狭まってしまうことから肺がんになったら進行をさせない、遅らせる対策が事前に必要です。ここでは肺がんのステージⅣに触れながら、肺がんが骨に転移したら何ができるかをお伝えしたいと思います。
目次
肺がんの罹患率と症状
罹患率
肺は、空気中の酸素をからだに取り入れ、不要になった二酸化炭素を外に出す働きをしています。鼻や口から吸い込んだ空気は喉頭を通り、気管に入ります。気管は左右の肺の中に入ると2つに分かれて気管支となります。気管支は更に細かく分かれ、先には肺胞という空気が入った小さなブドウの房のような袋が付いています。
1975年~1998年の統計では、男性のがんの割合は増加傾向にあります。最多は胃がんですが減少傾向を見せ、肺がんの割合は第2位です。
2003年の死亡率は胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、肝臓がんの順で肺がんは第3位です。60歳以上の喫煙者に多い病気ですが、それ以外の方でも発生することがあります。喫煙率は減少傾向ですが、高齢化に伴い国内では増加を続けています。
原因 – 喫煙者の肺がんリスク-喫煙者の肺がんのリスクは4.5倍
他のがんにも言えることではありますが、肺がんでは特に喫煙者に多く発症するがんです。喫煙者は非喫煙者の約4倍かかりやすいと証明したデータがあります。
肺がんは症状を表に出さずに早く進行する場合もありますが、早期に発見できれば手術で治る可能性も高くなっています。その他の原因では遺伝や大気汚染、女性では女性ホルモンなどがあります。
症状
肺がんは症状がでにくい疾患です。症状がなくても楽観視してはいけません。
見落としやすい最初の兆候として下記が考えられます。
1週間経っても咳が改善しない: 肺がんが気管支や肺を刺激して発生する症状です。血痰なども見られます。
- ①のひどい咳の刺激によってできる胸の痛み: 気管支を閉塞する、あるいは胸水がたまって肺が小さくなると呼吸困難、かれた声などの症状があります。
- 静脈症候群の症状: 肺がんが大静脈を圧迫すると、血液の循環ができなくなり、顔や首が腫れます。
※他の病気にもあてはまることなので判別しにくいですが、進行すると体力消耗、食欲減退、体重減少が出てきます。
肺がんと余命
ステージⅣの非小細胞肺がんの余命はだいたい平均1年です。近年の分子治療薬などの治療薬により余命は伸びている傾向にあります。中でも分子標的薬が奏功すると何年も生きることができます。奏功しない場合は余命が数ヶ月伸びる程度しか期待できません。
ステージⅣの肺がんは平均で1年の余命ですが、個人差も大きいです。分子標的薬の使える人やタバコを吸わない人や体力のある人などは、平均の余命より長生きできる可能性が高いです。また、一般的に骨転移の場合も余命は1年以内と言われています。
余命1年というのはまだ比較的体力がある状態で、延命への治療も期待できます。 しかし、もし余命1ヶ月などと言われた場合は、余命1年とは状況が大きく違います。多くの場合は体力も落ちており、日常生活を送るのがやっとです。治療は積極的には行わずに、緩和治療を中心に行うことになるでしょう。このような場合、いかに自分らしく生活を送るかも重要になりますので、親しい人と過ごしたり、自分の好きなことをしていきましょう。
治癒が目的にできなくなった – 延命を前向きに考える/宣告された余命を全うする
もはや抗がん治療の光が見られなくなったときには、絶望や不安は誰もが感じる通常の感情です。医療スタッフやご家族は安易に励まさず、その気持ちを受け止めて声をかけることが大切です。治療の望めない状況での接し方としては①治療の選択肢のメリット・デメリットを挙げてセカンドオピニオンを勧める。納得して決めたと思えることを目標にしてコミュニケーションをする。②患者の価値観や生き方を尊重する。この2つを参考になさってみてください。
肺がん骨転移の治療法
手術
骨に転移したがんを取り除く直接的な手術をすることはまれですが、骨転移による合併症である骨折と脊髄圧迫に対する手術があります。骨折などを起こさないように、生活の質を保つための手術となります。
化学療法
骨転移と診断されると進行度によっては緊急入院ということもありますが、身体への影響がなければ薬剤による治療が検討されます。
化学物質でがん細胞の分裂を抑えますが、骨髄細胞などの正常細胞も損傷を受けやすくなります。骨髄では白血球、赤血球、血小板などの血液細胞が作られるため、白血球、赤血球、血小板の減少が起こります。
放射線治療
骨の痛みの緩和以外に病的骨折の予防、脊髄圧迫の治療と予防、骨折治癒の促進など、目的とする部分に対する直接的な治療です。しかし、骨転移およびその痛みが全身へ広がった場合に、次から次へと照射することによる放射線の副作用が懸念されます。
大療法以外のケアについて
3大療法が施せない場合において、下記の治療法も検討することが医師から勧められるかもしれません。詳しくご紹介します。
緩和ケア
骨の痛みに対しては鎮痛剤などももちろんありますが、上記に挙げた治療法以外に緩和ケアという療法もあります。骨転移で初めてがんが発覚した患者にとっても、がんが進行しないように治療と向き合ってきた患者にとっても、「骨転移があります」と診断されたら人生に見放されたような気持ちになることも避けられません。そのように絶望的になったときに緩和ケア専門家によって身体的、精神的サポートを受けられます。
緩和ケアは終末期ではなく「痛み」を感じた時からいつでも始めることができるケアです。
WHOは「生命を脅かす疾患に関連する問題に直面している患者とその家族の苦痛、身体的、を早い段階で特定し、それらを適切に評価・治療することによって苦痛を防ぎ解放することを通して、患者と家族のQOLを改善するアプローチ」と定義しています。
骨転移では上記にも述べたように寝返りを打てないほどの骨の痛みがあり、生活の質が下がってしまうことが一番の問題でしょう。骨転移の痛み以外にがんの治療の過程では様々な困難が患者を襲います。がんと診断されたときの精神面における絶望感、孤独感、治療のよる副作用である痛みや吐き気、食欲不振、だるさ、便秘、眠れないなど体の症状、手術後の痛み、再発や転移による痛み、医療費の問題、転居、自宅療養についての不安、生きる意味についての悩み、などが出てきます。緩和ケアは、がんと診断されたときからいつでも受けることができ、患者が前向きに治療に取り組んでいき、生きる活力を取り戻していけるようになるのが利点です。
免疫療法
がんと免疫のメカニズムは、健康な方を例に挙げると、がん細胞は体の免疫が排除します。しかし免疫が弱っているとがん細胞を排除できなくなり、どんどん進行させていきます。骨転移の場合手術がほとんどできません。根治的な治療ができないため、副作用のある化学療法や放射線治療と組み合わせた免疫療法も注目されています。免疫療法では自己の体に備わっている免疫を使って、免疫本来の力を回復させてがんを治療する方法です。化学療法単体だと免疫力を下げますが、副作用を伴わない免疫療法を併用することで免疫力を落とさずに、そして化学療法による副作用を軽減させながら治療をすることが可能になります。免疫療法はがんになる前から予防としても使用することもできますが、末期のがん患者にとっては治療におけるストレスの軽減といったQOL(生活の質の向上)の観点から取り入れることも少なくありません。
肺がん患者の中には喉がつかえる症状があり、診察を受ける前から気づかぬうちに食べる量が減ってきたという人も少なくありません。そのため、治療の前に既に体重が減り、栄養状態も悪くなっていることが多いようです。
また、食事も免疫療法の一つであると意識して栄養をバランスよく取り入れて、しっかり食べて体力をつけていきましょう。放射線療法や抗がん剤療法を受けると白血球が下がりますが免疫療法ではこれを再び上げることが可能です。
その他でがんになりにくくさせる方法、進行させない方法としては直射日光を避け、ストレスをためず、ビタミンなどの抗酸化作用のある栄養素を摂ることです。
■さいごに- 骨転移はステージⅣのがんに現れる症状ですが悲観し過ぎないこと
がんが骨転移するとステージとしてはⅣ期と判断され一般的には予後が厳しくなるのは事実です。しかし、骨転移がそのまま死につながることはありません。直接死に関連するのは肺や肝臓、脳などの重要な臓器に転移する場合です。骨転移だけであれば、そこから進行させないための治療を受けることで、生存期間を延ばすことは可能です。実際、骨転移をしていても乳がんと上手に付き合いながら、長く生存している患者さんもたくさんいます。そのためにも、なるべく早期にがんを発見し、適切な治療を受けることが何よりも大切です。
医療ライター 吉田あや
得意分野:医療系ライティング、経営者インタビュー記事など。
※お仕事のご依頼についてご相談承ります。

医療ライター。
医薬系会社にて医療事務に従事する傍らで、美容系サイトにて痩身美容(脂肪吸引など)ついて執筆するフリーライター。
主に得意分野は、がんや免疫療法、経営者インタビュー記事作成など。