がんの原因の約5%が遺伝的要因と言われています。このことを家族性腫瘍と呼びます。だからと言って怖がるのは賢明ではありません。なぜならがんの原因となる主な原因は遺伝よりも、喫煙や野菜不足などの生活習慣の影響の方が多く、約6割を占めています。
がんと遺伝の関係
最近の研究によって、がんは遺伝子の変異によって起こる病気でもあることが明確になってきました。加齢、その他の要因によって遺伝子が傷つくことで起こることの方が多いでしょう。
ある家系において特定のがんをよく発症する について、先天的な遺伝子変異のがんと比べてみましょう。
<家族性腫瘍>
・確率は5%~10%
・家族性腫瘍の中には、生活習慣が似ることなどが原因となる場合がある
<先天的な遺伝子変異によるがん>
・原因となるものは5%以下
・実際に遺伝性のがんである場合は親から50%の確率で遺伝すると言われている
先天的な遺伝子変異によるがんを防ぐには、自分のリスクを知るために遺伝子検査を受けるなどして、予防を含めた対策することが大切です。
遺伝しやすいがんの種類
遺伝性のがん及びそれに類するものの主な例としては、大腸がん、乳がん、卵巣がん、骨軟部肉腫、皮膚がん、泌尿器がん、脳腫瘍、内分泌系腫瘍などがあります。遺伝しやすいがんには、ある特定の遺伝子に変異があることが明らかになっています。下記が遺伝から来るがんの種類です。
主な腫瘍 |
遺伝性腫瘍の病名 |
その他にできやすいがん |
大腸がん |
リンチ症候群 |
子宮体がん、卵巣がん、胃がん、小腸がん、卵巣がん、腎盂がん、尿管がん |
家族性大腸ポリポーシス |
胃がん、十二指腸がん、デスモイド腫瘍 |
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乳がん、卵巣がん |
遺伝性乳がん、卵巣がん症候群 |
前立腺がん、膵臓がん |
骨軟部肉腫 |
リー・フラウメニ症候群 |
乳がん、急性白血病、脳腫瘍、副腎皮質腫瘍 |
皮膚がん |
遺伝性黒色腫 |
膵がん |
泌尿器がん |
ウィルムス腫瘍 |
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遺伝性乳頭状腎細胞がん |
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脳腫瘍 |
フォン・ヒッペルーリンドウ症候群 |
網膜血管腫、小脳・延髄・脊髄の血管芽細胞腫、腎・膵・肝・副腎等ののう胞・腫瘍 |
眼のがん |
網膜芽細胞腫 |
骨肉腫、肉腫 |
内分泌系の腫瘍 |
多発性内分泌腫瘍症(1、2型) |
甲状腺関連腫瘍 |
【リンチ症候群】リンチ症候群はリンチ博士が発見したことにより名づけられました。大腸がんの5-10%は遺伝的な要因が強く関係していると考えられていますが、特に大腸がんの場合において最も頻度が高いのがリンチ症候群です。
【家族性大腸ポリポーシス(家族性大腸腺腫症)】
リンチ症候群と比べると頻度はそれほど高くありません。通常、若い頃から大腸の全域に100個以上のポリープが見られると家族性大腸ポリポーシスと診断されます。
【遺伝性乳がん・卵巣がん】
同じ家系の中に乳がん・卵巣がんを発症する人が集積し、原因となる遺伝子としてBRCA1、BRCA2 の2種類があることが分かっています。
・母親が乳がんを発症すると、娘の発症リスクは一般的なリスクの約2倍
・母親と姉が乳がんを発症した場合には、妹の発症リスクは一般のリスクの約4倍
と言われています。
遺伝性乳がん・卵巣がんの特徴として、家系内に複数の乳がん・卵巣がんを発症した人がいる、 40歳未満で発症する(若い)、 片方に乳がんを発症した場合、反対側の乳がんまたは卵巣がんも発症する場合がある、などが挙げられます。
【リー・フラウメニ症候群】
変異による遺伝性腫瘍で、肉腫、副腎皮質腫瘍、脳腫瘍、白血病、乳がんなど、多くの臓器にがんが多発し、大腸がん、胃がん、肺がんの頻度も高いといわれています。がんの約4分の1は18歳より前に発症し、約半数は、30歳までにがんが発症することが多いようです。
【ウィルムス腫瘍】
小児の腎臓に発生する代表的な悪性腫瘍で,小児の腎腫瘍の9割はウィルムス腫瘍です。幼児に多く、様々な奇形を伴い、多くの症候群に出現することが多いという特徴があります。
【フォン・ヒッペル−リンドウ症候群】
発症する主な腫瘍は脳脊髄の血管腫、網膜の血管腫、腎細胞がん、副腎褐色細胞腫、膵臓腫瘍があります。
遺伝子治療
遺伝性のがんに対して、また遺伝性のがんを予防する方法としてがん遺伝子治療というものがあります。これは最先端の治療法で保険承認がおりていないため治療費は自己負担です。世界的にも研究が進んでいるためこれから更に最先端となっていく治療法として期待されています。どのような特徴やメリットがあるのか見てみましょう。
副作用が少ない
副作用として発熱や頭痛や血圧変動が起こる場合がありますが、解熱剤や少量のステロイドを投与することによって副作用をほとんど抑えることができます。
がんのあらゆるステージで治療が可能
予防、再発予防、再発中、末期まで使用できます。
正常細胞に影響を与えない
治療で使用するがんの抑制遺伝子は、正常細胞に元々備わっている遺伝子ですので、投与によって正常細胞へ影響を与えません。
抗がん剤や放射線治療の効果を増強させる
抗がん剤治療や放射線治療は、細胞分裂の際にDNAを損傷または転写阻害して細胞死に追い込みます。遺伝子治療もDNAが損傷された細胞を排除するので、抗がん剤や放射線治療の効果を増強させることができます。
前がん状態にも対処
まだがんを発症していなくても、がん抑制遺伝子が正常に機能していない前がん状態の細胞も同様に作用するので、前がん状態の細胞の増殖を止めたり、自滅に追い込むことができます。がん発現の予防にも効果的です。
治療適応範囲が広く、種類を問わない
抗がん剤・放射線治療・免疫療法など、どのがんの治療とも相乗効果があり、併用ができます。がんの種類、部位も問いません。
デメリットとしては、まだ自由診療のため高額の費用を考えなければいけないという点です。治療費は1クールで100万円~300万円ほどになります。クリニック側が治療費を自由に決められる為です。中には500万円以上の治療費を取っているクリニックなどもあり、遺伝子治療で高額の治療費を得ようとする不誠実なクリニックも存在しています。クリニックによってはがんの知識が乏しい医師が治療をする可能性もあるので、注意しましょう。
がんの予防について
生活習慣の見直し
がんには遺伝的な要因だけでなく、環境要因も関係しているため、例えば、血縁者に喫煙者や大酒飲みが多い場合、他の人たちに比べ、がんを発症するリスクはもちろん高くなります。また、家族は一緒に食事することも多くなるため、生活習慣が似ています。家族の多くが太っていたり、濃い味付けの食生活を好んでいると、家族全員で同じような病気になることもあるでしょう。そのため、もし「がん家系かもしれない」と思った場合、がんを引き起こしやすい生活習慣をしていないか、家族の全員で見直してみることをお勧めします。
免疫療法
がんと免疫のメカニズムは、健康な方を例に挙げると、がん細胞は体の免疫が排除します。しかし免疫が弱いととがん細胞を排除できなくなり、がんをどんどん進行させていきます。抗がん剤は免疫力を低下させてしまうというリスクがあるため免疫療法と組み合わせる方法も注目されています。免疫療法では自己の体に備わっている免疫を使って、免疫本来の力を回復させてがんを治療する方法です。抗がん剤単体だと免疫力を下げますが、副作用を伴わない免疫療法を併用することで免疫力を落とさずに、そして抗がん剤による副作用を軽減させながら治療をすることが可能になります。免疫療法はがんになる前から予防としても使用することもできます。
遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングとは、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーによって行われるものです。遺伝に関わる悩みや不安や疑問などを持たれている方々(本人以外でも、問題に直面している方、またはそのご家族などどなたでも対象になります。) に対するカウンセリングで、科学的根拠に基づく正確な医学的情報を教えてもらうことができます。具体的にはどのようなサービスか見てみましょう。
<相談できること>
・子どもが遺伝病と言われた。家族に同じ病気の人はいないのになぜ?
・次の子どもがほしいけど遺伝が心配。
・親が遺伝子の疾患と診断されたので、将来自分も同じような病気にならないか不安。
・高齢の妊娠だが、お腹の赤ちゃんに染色体異常がないか?
など、遺伝についての不安に対して、専門家が対応します。
<秘密遵守について>
遺伝カウンセリングの内容は、重要な医療情報です。厳重に機密として扱われます。
<費用について>
原則として自費診療で施設ごとに価格が設定されており、一般的には5千円~1万円程度の施設が多いようです。これより高い施設も安い施設もありますので、遺伝カウンセリングを設置している施設にお問い合わせください。
<注意点>
遺伝学的検査のほとんどは、一生の間変化しない個人の遺伝子情報を検査します。遺伝子情報は、究極の個人情報と言える一方、血縁者との情報が一部共有されています。従って、一人の方の病気の遺伝学的検査の結果によって血縁者に同じ病気が見つかる可能性があります。遺伝学的検査に際しては、遺伝カウンセリングを受けるなど、事前の配慮が必要となります。
さいごに
血縁者に、若いころ乳がんや卵巣がん、大腸がんなどになった人が多い場合は、家族性腫瘍も念頭におく必要があります。早期発見のためにも検診などを心がけてください。
医療ライター 吉田あや
医薬系会社にて医療事務に従事する傍らで、
美容系サイトにて痩身美容(脂肪吸引など)ついて執筆するフリーライター。
主に得意分野は、がんや免疫療法、経営者インタビュー記事作成など。