治療成績の良い大腸がんですが、中には術後に人工肛門を取り付けなければならないケースもあり、QOLが問われます。
ここでは大腸がんの症状、治療法、術後の過ごし方、予防などについて紹介します。
目次
大腸がんとその症状
大腸がん
大腸は主に盲腸、結腸、直腸の3つに分けられるため「大腸がん」ということは結腸がん、横行結腸がん、盲腸がん、S状結腸がん、直腸がんのことを指します。
大腸は食べ物が消化吸収された後、容物を貯め、水分を吸収して大便にする器官です。乳酸菌、大腸菌などの約100種類の腸内細菌が存在しており、食物繊維の分解や感染予防の働きなどをしています。直腸は便の貯留と排出に非常に重要な役割を担っています。
盲腸は特に大きな働きはしていませんが、結腸は水分やナトリウムを吸収したり、便を作ります。また、小腸で消化しきれなかった炭水化物やたんぱく質を分解、吸収し便を直腸に流します。大腸がんは粘膜に発生し、粘膜にできたポリープ(良性腫瘍)ががん化するパターンと、粘膜から直接がん化するパターンの2つあります。
症状
大腸がんの症状には下記のような症状があります。
・血便(血液が混じった便)が出る
・下血(げけつ:肛門からの出血)が起きる
・便が細くなる
・下痢と便秘を繰り返す
・便が残っている感じがする
・貧血が起きる
・嘔吐する
大腸がんの初期症状は気づきにくい。また混同しやすい疾患も知っておきましょう。
大腸がんだけにあらわれる症状というものはなく、症状から大腸がんに気付くことは難しいと考えられます。何らかの症状があらわれたときには医療機関を受診し、検査を行うことが必要です。
大腸がんと鑑別を要する疾患として挙げられるのは腹痛、急性腸炎、骨盤腹膜炎、潰瘍性大腸炎です。排便時の出血や血便は、痔や大腸ホリープ、炎症性腸疾患でもみられます。
下記に詳しくどういった症状が混同されやすいか見てみましょう。
腰痛
大腸がんによる痛みを「腰痛」と感じることは多くはありません。腰の骨や筋肉が原因の腰痛を除き、腰のあたりが痛くなることがある病気と、それぞれで出やすい症状の例をいくつか挙げます。
腎盂腎炎
痛み、発熱、だるさ
尿路結石
痛み、血尿
子宮内膜症
月経時の痛み
急性大動脈解離
移動の際の痛み
これらはあくまで一部の例で、実際に腰のあたりの痛みの原因を見分けるには多くの病気を考える必要があります。
発熱
通常は初期の大腸がんで発熱することはありません。がんが進行すると全身をむしばむこととなり、発熱が起こる場合もあります。
しかし、発熱は大腸がん以外でも起こります。風邪でも発熱しますし、骨折でも発熱は起こります。そのため、発熱したから大腸がんを疑うということはありません。症状や生活の状況から総合的に大腸がんを疑います。
貧血
大腸がんが進行すると貧血が起こります。理由は以下の2点になります。
下血で血を失う
全身に炎症が起こってうまく赤血球を作れなくなる
しかし、貧血が起こったら大腸がんがあるということは決して多くありません。貧血はその他の多くの病気によって起こりうるのです。貧血を起こす主な原因は以下になります。
鉄分不足
慢性腎不全
膠原病
関節リウマチ
SLE
肝硬変
感染症
妊娠
再生不良性貧血
自己免疫性溶血性貧血
これ以外にも貧血の原因となる病気はいろいろ考えられます。貧血がある場合は、大腸がんのことも頭に入れつつ、むしろほかの病気を考えたほうが良いかもしれません。
なお、ここで言う「貧血」とは、血液の中で酸素を運ぶ物質(ヘモグロビン)が少なくなっている状態を指します。めまい・ふらつきの症状は、貧血が原因になっていることもありますが、貧血とは関係ない場合もあります。
ステージごとの症状は?
大腸がんの症状とステージ(進行度)は正確に対応しません。大腸がんが進行して大きくなると、上に挙げた腸閉塞などによる症状が出やすくなります。悪液質と呼ばれる食欲不振や体重減少などの症状が出る人もいます。しかしかなり進行していてもほとんど症状がない場合もあります。大腸がんと診断されたあとでも、「これまでなかった症状が出たから末期がんではないか」と考えるのは必ずしも正しくありません。
※大腸がんのステージとは?
ステージとはがんが進行している度合いのことです。進行度が低いステージ0から進行度が高いステージIVまでに分類されます。
大腸がんが進行していくと、大きく分けて3種類の経路で周りに広がります。
発生した場所から周りの大腸の壁に、さらには隣り合った臓器に食い込んでいく(浸潤)
リンパ管を通ってリンパ節に流れていく(リンパ節転移)
離れた臓器に流れ着く(遠隔転移)
血管を通って離れた臓器に流れ着く(血行性転移)
臓器の隙間に飛び散る(腹膜播種)
治療法
大腸がんの治療法はステージ別で下記のような方法が一般的となっています。
【ステージ0~Ⅰ期】内視鏡手術、その後経過観察
【ステージⅠ~Ⅲ期】手術(開腹、腹腔鏡手術)、その後放射線療法と化学療法
【ステージⅣ期】放射線療法、化学療法
手術が可能であれば、放射線療法、化学療法は補助的な療法として活用されます。手術が体力的、年齢的に厳しい場合は放射線療法、化学療法を中心としていきます。
※腹腔鏡下手術:炭酸ガスで腹部を膨らますことにより、小さな穴を数箇所開けます。腹腔鏡下手術専用のカメラや器具を使用します。開腹手術に比べて小さく抑えられるので体の負担が軽減されます。また術後の回復も早いことから年々採用が増えています。
大腸がんの再発とは
手術でがんを全部取り切ったと判断しても,肉眼的には把握できないがんが体内に残っていることがあるため再発が起こります。CTなどの現在の先端医療における医療機器では発見できないために、見逃されることがあります。
大腸がんの再発は、ほとんどの場合手術から5年以内に起こります。
初回の手術で目に見える範囲の大腸がんをすべて取り除き、化学療法を終えたあと時間が経過して、またがんが見つかることがあります。がんの再発には2種類あり、治療をした大腸に発生する局部再発と、大腸から遠く離れた臓器やリンパ節に転移が発見されることを指します。
大腸がんの遠隔転移となる部位は、肝臓や肺です。なぜこの2つの部位に転移するのかというと、大腸と肺、肝臓は血管でつながっているからです。例えば肝臓に転移しやすいのはこのような原因からです。大腸を含む消化器で吸収された栄養分が門脈という血管を通り、一度全て肝臓に流れ込みます。肝臓が大腸から吸収された栄養分が血流に乗って一緒に流れてくると、肝臓にはがん細胞を受け止めるフィルターのような存在だからです。そのためがん細胞も大腸から肝臓へと運ばれ、滞留し、肝転移が起こります。
術後は再発しないように経過観察が必要ですので、必ず定期的に検診に行きましょう。
大腸がんが初期で発見されたら取り入れたいこと
食事
基本的には食事制限はありませんが、栄養バランスの偏りなく、規則正しく食事をしなければなりません。腸閉塞を引き起こしやすい消化の悪い食品や食物繊維を含む食品、ガスが発生しやすい食品、刺激が強い食品なども術後3ヵ月は控えた方が良いでしょう。採るべき食事としては例えば、肉類であれば脂身の少ないささみ、卵、豆腐、乳製品も推奨されています。また、海藻、こんにゃくは水溶性の繊維で保水性があるため、大腸の粘膜を保護する働きもあります。調理法は油を使うのではなく、煮る、蒸す、焼く、細かくきざむが良いとされています。また、一度大腸がんを経験した方で飲酒が習慣になっていた方は、リスク要因となるお酒の量を改めて見直すべきでしょう。大腸がんがもし転移してしまったときに肝臓の機能が弱っていると治療に影響が出てくることも考えられます。
その他にがんになりにくくする方法、進行させない方法としては、ストレスをためず、ビタミンなどの抗酸化作用のある栄養素を摂ることです。大腸がん経験者は特に便秘が癖にならないようにして、老廃物である便を腸内に長く停滞させないように気をつけましょう。規則正しい排便習慣や適度な運動によって腸内の働きを健康にしておくことが転移予防につながる生活習慣の一つと言えます。
免疫療法
免疫療法とは自身の免疫を活用し治療をする方法です。がんの3大療法の次の治療法として注目されているのは副作用がほとんどない点が挙げられます。
がんを発症して化学療法などを受けると免疫力を低下させDNAを破壊しますが、免疫療法は自己の免疫を活用して免疫力を高めていく療法です。また大腸がんの再発の治療法のメインとなっている化学療法と併用することで副作用を軽減することができたというケースもあります。
さいごに
早期に大腸がんの発症に気付くためには定期的な検診が重要です。無症状であるにもかかわらず大腸がんと診断された患者様は、「まさかがんだったとは」と驚かれる方もいらっしゃいます。そうしたケースもあるからこそ、大腸がん検診を定期的に受けて発症を見逃さないことが大切です。
医療ライター 吉田あや
得意分野:医療系ライティング、経営者インタビュー記事など。
writer.happy02@gmail.com