大腸がんは、日本国内において発生率の高いがんとして知られています。
近年は内視鏡や腹腔鏡を用いた、患者様に負担の少ない手術が実現しており、術後の経過も良く入院期間の短縮なども可能になってきています。
しかし、場合によっては病変部分を広範囲に切除したり、人工肛門の造設が必要になる場合がある為、生活習慣に支障をきたす事が全く無いとはいえません。
こちらの記事では、気になる術後の食事について注意すべき点についてご紹介します。
目次
大腸の働き
大腸は、便を作り水分を吸収する働きを持っています。
また、ぜん動運動により、小腸で吸収された残りの物質から水分を吸収する働きをします。
水分の吸収は主に大腸の右側(盲腸・上行結腸・横行結腸)で行われ、大腸の左側(下降結腸・S状結腸)では便を肛門へと送る働きをします。
大腸のぜん動運動は小腸よりも遅く、10~20数時間滞在します。
食べ物を食べてから便が排泄されるまではトータルで24~72時間かかります。
便秘や下痢は大腸の水分吸収の働きの差によって生じます。
また、糞便をなめらかにするために粘液を分泌しています。
多量の腸内の細菌を排泄し(全固形成分の約1/3)、細菌に対する防御機構も働いています。
そして筋肉のぜん動運動により、内容物を直腸に向かって移動させます。
国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/
大腸がんとは
大腸は、盲腸から始まり、上行結腸・横行結腸・下行結腸・S字結腸を経て、直腸・肛門までの総称です。
大腸がんは、日本人ではS状結腸と直腸に発生しやすいといわれています。
大腸がんは主に、粘膜表面から発生し、進行すると大腸の壁に次第に深く侵入していき、リンパ節や肝臓、肺などの他の臓器に転移します。
粘膜下層でとどまったがんを早期がん、筋層まで広がったがんを進行がんと呼びます。
大腸がんの95%以上は「腺がん」に分類されます。
がんの深達度や転移の有無によって、進行度を表す、ステージ分類を決定しています。
大腸がん情報サイトhttp://www.daichougan.info/discover/stage.html
大腸がんの手術
各臨床病期に合わせた術式を選択し、できるだけがん細胞を取り除くことを目標に手術を行います。
国立がん研究センターがん情報サービスhttps://ganjoho.jp/public/cancer/colon/treatment_option.html
大腸がんは初期の場合、内視鏡手術にて開腹せずに大腸の内壁にできた腫瘍を切除する事が可能です。
手術技術の進歩により、できる限り必要最小限の切除が主流となっています。
肛門と神経を残す手術を「機能温存手術」といいます。
がんが肛門の近くにあり、手術によって肛門の機能が残せない場合には、人工肛門を造設することがあります。
人工肛門は、ご自身の腸の一部をお腹の表面に出して、そこから便が出るようにしたものです。
大腸がん手術後の食事について
大腸がんの手術を終えた後、基本的には食事制限はありません。
栄養バランスの偏りなく、1日3食、規則正しく食事をとることが大切です。
ただし、消化の悪い食品や食物繊維の多い食品は、腸閉塞を引き起こす可能性があるので、手術後3ヵ月ほどは控えたほうがよいでしょう。
また、ガスが発生しやすい食品や、刺激が強い食品も控えめにしましょう。
(1)食べ過ぎに注意する
一度に食べすぎると、下痢や腸閉塞を起こす可能性があります。
退院後は、段階的に量を増やし、1回の食事を減らしましょう。
(2)消化を促す食べかた
早く食べることは下痢の原因となり、頻便を助長する可能性があります。
よくかむことで消化吸収を助けます。
(3)決まった時間に食事を摂りましょう
不規則な食事は、便通を不安定にし、下痢、便秘、頻便を起こしやすくします。
(4)消化しやすいものをバランス良く
消化の悪い食品を食べすぎると、下痢や腸閉塞の原因となることがあります。
消化しにくい食品でも、少量であれば問題ありません。
よく磨り潰したり、細かくきざんだり、軟らかく煮込むなど食べ方や調理を工夫すれば、腸への負担が少なくなるので、量を増やしても問題ありません。
(5)アルコールはほどほどにしましょう
大腸の手術後、アルコールを飲んではいけない理由はありません。
しかし、アルコールを摂取することで食生活を乱しやすくなるので、控えめにしておきましょう。
(6)人工肛門の場合
人工肛門の場合も、大腸がん手術後と同様に、特に食事制限はありません。
ストーマを装着するという点から、ガスを多く発生するような炭酸飲料などは、少量にしましょう。
バランスの良い食事とは
朝、昼、夕食ともに主食と主菜、野菜料理中心の副菜をバランス良く取りましょう。
主食(エネルギー源): 米飯、パン、めん類等
主菜(タンパク質): 魚、肉、卵、豆類、乳製品
副菜(ビタミン・ミネラル): 野菜、海藻、果物
術後の食事療法と生活習慣
術後には、様々な症状が出現します。
それぞれの症状には個人差がありますが、手術によって、腸の機能が正常に働かない、または、働きが弱くなっている為に起こる諸症状が出る事がありますので、刺激を与えることなく、ゆっくりと回復するのを待つことや、術前とは違う体調に対応していけるように意識することが大切になります。
前述のように、食事制限は特にありませんが、日々の食事を見直すことで、改善できる症状もあるのです。
(1) 便秘
野菜や果物、豆類等食物繊維を多くとるようにしましょう。
ただし、術後3ヵ月以内は腸閉塞の原因となることがありますので控えましょう。
水分を多くとりましょう。
特に、起床時の1杯の水は重要です。
食事時間は規則正しくしましょう。
朝食を必ず取りましょう。
生活のリズムを整え、規則正しい排便の習慣をつけましょう。
朝、必ずトイレに入るよう心がけましょう。
適度な運動をしましょう。
食事・生活習慣に注意しても便秘が続く場合、下剤が必要となりますので、担当医に相談しましょう。
(2) 下痢
消化の良い食品をとりましょう。
水分は積極的に摂るようにしましょう。
水よりもスポーツドリンクのようなミネラル分が入ったものも有効です。
少量ずつの食事を、回数を増やすことで、消化管の負担を軽くしましょう。
(3) 頻便
食事時間を規則正しくしましょう。
特に朝が大事です。
生活のリズムを整えましょう。
過労は禁物です。
(4) 腹部膨満感
1回の食事量を控えるように心がけましょう。
改善されない場合は、絶食してみましょう。
絶食しても腹部膨満が続き、排ガスのない場合は腸閉塞が疑われます。
担当医にすぐに相談しましょう。
控えたほうがよい食べ物の例
消化の悪い物、腸に刺激を与えるようなものは避けましょう。
<タンパク質>
油の多い料理
脂肪の多い肉
魚介 ・・・貝類、いか、たこ、すじこ、かまぼこ、干物、佃煮、塩辛など
豆 ・・・大豆、枝豆など
<糖質>
穀類 ・・・玄米、赤飯、玄米パン、胚芽入りパンなど
油を多く使用した料理
いも ・・・ 繊維の多いさつまいも、こんにゃく、しらたきなど
果物 ・・・ 繊維が多く酸味の強い果物、干し果物など
菓子 ・・・揚げ菓子、辛いせんべい、豆菓子など
<脂質>
油脂 ・・・ラード、ヘッド
油を多く使う料理
<ビタミン・ミネラル>
野菜 ・・・繊維の多い野菜
香りの強い野菜
かたい漬け物
海藻
<その他>
調味料 ・・・辛子、カレー粉、わさびなどの香辛料の使い過ぎ
飲み物 ・・・炭酸飲料、アルコール、濃いお茶、濃いコーヒーなど
腸と免疫機能
免疫力回復のカギを握る存在と言われているのが腸です。
腸は飲食物に含まれる栄養分を吸収する一方で、細菌やウイルスはその感染を防ぐため吸収せず便として体外に排出しなければなりません。
従って血液中を流れるリンパ球といわれる免疫細胞の多くが腸に集まっており、それら免疫細胞が腸の粘膜やヒダに集まってバイエル版と言うリンパ組織を形成しています。
そのため腸には、体内の免疫細胞の約6割が集中しているといわれています。
つまり、腸内環境を整えることが免疫力を高めることにつながるのです。
また、正常な人でも毎日3,000~4,000個発生すると言われているがん細胞が生じるのは、ほとんどが腸内の粘膜からといわれています。
そのような病原菌や有害菌などの外敵を素早く感知し、攻撃し、排除するため、免疫細胞が24時間365日、常に腸を守り続けなければなりません。
つまり腸が人の体で最大の免疫器官である理由がここにあるわけです。
そしてこの腸内の免疫と腸内細菌は密接な関係をもっています。
大腸がんの治療において、腸の一部を摘出したことにより、腸内環境の変化が起きることは、全くないとは言えません。
術後に免疫力が低下することは、腸内環境だけの問題ではなく、患者様自身の体力の低下なども関係してきますが、「免疫力」と「腸内環境」について留意することは、病気の回復を早めるだけでなく、日々健康に生活する上で重要なことではないでしょうか。
免疫力を高めるためにバランスのとれた食生活を心がけましょう。
現在がんの治療で注目されているものに、免疫療法があります。
免疫力を高めるワクチンは、がんの予防などにも活用されています。
術後の体力が落ちている時や、がんの再発予防にも有効です。
腸を切除した頃で、腸管内の免疫細胞が減ってしまっていたり、働きが弱まっていることもあるかと思いますので、このような免疫療法を併用することで、免疫力の低下に起因する感染症へのリスクを軽減できます。
まとめ
大腸がんの手術の後には、便秘や下痢をはじめ、様々な症状が出る事が多く、中には腸閉塞などの重篤な症状が出る場合もあります。
日々の食事に気をつける事で回避できる事も多いですが、気になる症状については、自己判断せずに、必ずおかかりの医療機関にご相談しましょう。
術後の食事に気をつける事によって、回復を早める事が出来るのです。
大腸がん情報サイト
国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/

医療ライター・臨床検査技師。
医療の現場での経験を生かして、がん患者を抱える家族として、
がんに関する記事を寄稿しております。