膀胱がんで最も疑われる症状は血尿です。血尿と言っても尿検査をやって初めてわかるような血尿ではなく、多くの方が実際に自分の目で見て真っ赤な尿が出て検診を受けるようです。膀胱がんが原因で血尿が出る時には、痛みが全くないことが多いようです。これは他のがんと同じですが、転移があった場合、転移している臓器による症状で見つかる方もいます。膀胱がんは女性より男性に多いがんですが、女性にとって混同しがちな症状(がん以外の疾患)があると言われています。ここでは女性が膀胱がんの初期症状を見極めるための知識をお伝えします。
目次
膀胱がんとは
膀胱の機能
膀胱は骨盤内にある臓器です。腎臓でつくられた尿が腎盂⇒尿管を経由して運ばれた後、一時的に貯留する袋のような役割を持っています。膀胱には尿が漏れ出ないよう一時的に貯めておき、ある程度の貯まると脳に尿意を感じさせ排出したくなる機能があります。
※膀胱を含め、尿管、腎盂、一部の尿道の内側は尿路上皮という粘膜で覆われています。
膀胱がん
膀胱がんは尿路上皮ががん化することによって引き起こされます。そのうち大部分は尿路上皮がん(筋層非浸潤性がん)という種類です。(①)
- 筋層非浸潤性がん:膀胱筋層には浸潤していないがんで、表在性がんと上皮内がんの2種類があります。
・表在性がん:それほど有害ではない大人しく浸潤しないがんですが、中には放置しておくと進行して浸潤がんや転移を来す危険性のあるものもあります。
・上皮内がん:膀胱の内腔に突出しておらず、粘膜のみががんになった状態です。
筋層浸潤性がん:膀胱の筋層に浸潤している状態で、膀胱壁を貫通して壁外の組織へ浸潤したりします。リンパ節や肺や骨に転移を来す危険性があります。
膀胱がんの症状
膀胱がんの症状は、赤色や茶色の尿が出ることが一般的な症状です。また、頻繁に尿意がある、排尿時に痛みがあるなど、膀胱炎に似たような症状が現れることがあります。膀胱がんは発生しても症状が軽いため、気づきにくいがんです。症状が現れた時はすでに筋層浸潤性がんや転移性のがんであったということもあります。
早期に発見できるに越したことはありませんので、下記の自覚症状があれば検診を受けましょう。
- 肉眼的血尿
肉眼的血尿(血の色が鮮血)は最も一般的な膀胱がんの症状です。血のかたまりが出る場合もあります。一般的に痛みなどを伴わない無症候性です。膀胱炎など別の疾患で血尿が出ることもあるため必ずしも膀胱がんだとは言い切れませんが、数日間は注意して経過観察をしましょう。
- 膀胱刺激症状
尿意切迫感、頻尿、排尿時痛や、下腹部の痛みなどの膀胱刺激が症状として出ることがあります。このような症状は膀胱炎と非常に似ていますが、決定的に違う点は抗生剤がなかなか効かないことです。
- 背部痛
膀胱がんが広がり、尿管口が閉塞されることにより尿の流れが滞り、尿管や腎盂が拡張します。(初期症状から少し経過してから出てきます。) この水腎症と呼ばれる現象は背中に鈍痛を感じます。ですが、類似している疾患として尿管結石でもこのような症状が出てきます。
女性にとって膀胱がんかどうか見分けがつきにくい場合の症状
膀胱がんの症状で女性に特有の症状はほとんどないと見なされていますが、膀胱がんかどうか惑わされがちな症状が、下記の症例が示しています。
- 血尿:女性器からの出血が血尿と間違われることがあります。女性の血尿の場合、子宮、卵巣からの出血の可能性を考える必要があります。
※膀胱がんが子宮に浸潤し、不正性器出血として認識されることはほとんどありません。
- 膀胱炎
膀胱炎とは尿をためる臓器の膀胱に炎症が起きている状態です。膀胱炎は女性がかかりやすく、血尿の症状が表れます。女性の場合男性よりも尿道の出口~膀胱までの距離が狭く、細菌が入った場合膀胱に運ばれやすいため膀胱炎になりやすいと言われています。特に女性は一度膀胱炎になると慢性化して、繰り返す傾向にあります。
女性は上記のような疾患と膀胱がんの初期症状を混同してしまうかもしれませんが、少しでも血尿が見られたら病院で検診を受けた方が良いでしょう。
原因
①喫煙:膀胱がんの確立されたリスク要因は喫煙です。男性の5割以上、女性の約3割の膀胱がん患者は喫煙者だったというデータがあります。
因果関係ははっきりしていませんが、喫煙者は喫煙しない人に比べて2~4倍、膀胱がんの発症リスクが高まると言われています。全てのがんの種類が喫煙などの生活習慣病と関係していますが、日本泌尿器科学会のデータ分析では喫煙者の膀胱がんの発症は非喫煙者より約5年早いということが分かっています。
- 業病:仕事上ベンジジン、ナフチルアミン、アミノビフェニルなどの危険物質にさらされることもリスク要因とみなされています。
治療法
膀胱がんの治療には下記の方法があります。膀胱がんの浸潤度によって方法は決まります。
手術: 膀胱がんの最も標準的な治療で、経尿道的切除術と膀胱全摘術があり ます。
− 経尿道的膀胱腫瘍切除術:下半身麻酔で尿道から内視鏡を挿入します。電気メスを使用して膀胱腫瘍を切除する手術です。
− 膀胱全摘除術:開腹し膀胱を全部摘出することで治癒を目指す手術です。また、上記の経尿道的膀胱腫瘍切除術では切除しきれない場合にも選択されます。その際、膀胱がんが転移する可能性のあるリンパ節(閉鎖リンパ節や腸骨動脈周囲リンパ節)の摘出も行います。
膀胱を適出した場合、尿路を改めて再建する必要があり、このことを尿路変向術と呼びます。がんのある位置、病態や全身状態などによって3つの再建方法があります。
※女性の場合は、子宮と腟の一部を膀胱と一緒に切除するのが一般的です。腟が少し短くなってしまいますが、性交渉に支障はそれほどありません。
※男性の場合は射精障害、勃起機能不全を引き起こす可能性がありますので、事前にリスクについて担当医と話し合いましょう。
放射線療法
放射線はがん細胞を死滅させることができるため、手術が難しい場合、もしくは手術との組み合わせで用いられます。膀胱がんの場合、放射線単独または化学療法と組み合わせにより浸潤性の膀胱がんの治療に使用できます。膀胱全摘除術の場合尿路変更が必要となるのですが、手術では、膀胱を全部摘出することをさける場合に組み合わせることがあります。副作用として考えられるのは、照射部の皮膚炎、直腸の出血、膀胱の委縮があります。
化学療法
− 膀胱内注入療法:経尿道的膀胱腫瘍切除術の後に再発予防として膀胱内に注入することがあります。
− 抗がん剤全身投与法 : 進行性の膀胱がん(リンパ節や他の臓器に転移のある場合) は、抗がん剤を組み合わせて点滴注入します。
また膀胱全摘除術の前または後に、膀胱がんの根治 (がんを完全に死滅させる)を高めるために用いる場合があります。
術後再発率
膀胱がんの治療後の最も大事なことは膀胱がんが再発した際にいかに早期に発見するかです。特に経尿道的膀胱腫瘍切除術後の再発率は約3割~8割強と言われており非常に高い確率です。
表在性膀胱がんで、経尿道的膀胱腫瘍切除術の場合、5年生存率は95%以上となります。しかし、再発を繰り返しているうちに浸潤性膀胱がんへと進み、膀胱全摘除術が必要となることもあるため術後も十分な経過観察が必要です。
尿路変向術後の政府からのサポート
人工膀胱・尿路変向術は身体障害者手帳では4級と認定されているため障害年金の対象にはならないと思っている方が多いようです。障害年金では人工膀胱・尿路変向術は3級に認定されますので障害年金を受給できるよう、詳しく窓口や病院で情報収集をしてみましょう。
上記以外の治療法について-
免疫療法
免疫療法はがんの3大療法(手術、放射線療法、化学療法)の次に効果が注目されている治療法です。自身の免疫を活用するので体に優しく、3大療法に比べ副作用がほとんどありません。
膀胱がんにかかってしまうと最悪の場合は膀胱を全部摘出してストーマを取り付けることもありますし、女性の場合は子宮の一部を切り取らなければならないこともあります。初期症状に早く気づいて治療することが最も大事ですが、ステージの早い段階で発見した場合、進行を遅らせたり、進行するのを食い止めることも期待できるのが免疫療法です。また、免疫療法は一度かかってしまった膀胱がんの再発予防としても検討することができます。(上記でも触れたように膀胱がんは再発の可能性の高いがんの種類です。)
がん細胞というのは、手術をしたとしても体のどこかに残っていて再発や転移をする可能性があります。そのがん細胞が、症状も示さずに水面下にあるということを、一度がんを発症した患者は注意して生活しなければなりません。
免疫療法はがんだけに作用するだけでなく他の病気にもかかりにくい状態にすることも可能な場合があります。
食事療法と運動
民間療法にはいろいろな製品が食事療法として紹介されていますが、基本的な食生活を見直すことをまず行ってほしいと思います。進行させない方法としては、ストレスをためず、ビタミンなどの抗酸化作用のある栄養素を摂ることです。野菜に偏りすぎるのは良くありませんが、バランスよく、菜食中心にすることが推奨されています。
また、もし運動が医師から許可されているようであれば取り入れてみてはいかがでしょうか。運動も免疫力アップに有効だと言われていますし、米国がん学会のガイドラインでは、がん治療中に運動すると化学療法の効果が上昇することが分かっています。精神的にも肉体的にも辛い治療を受けていると精神的にストレスが溜まり、体力が低下することもありますので、無理のない範囲で体を動かしましょう。
さいごに
血尿が出たとき最初は心配でも勝手に「膀胱炎だろう」などと自己判断するのは危険です。
膀胱がんは気づかないうちに進行している怖いがんの種類とも言えます。毎日トイレで自分の尿に異常がないか自己チェックしていきましょう。検診で尿潜血が疑われたり、赤い尿が出た際には膀胱がんの兆候かもしれませんので、できるだけ早く泌尿器科専門病院を受診しましょう。
医療ライター 吉田あや
医薬系会社にて医療事務に従事する傍らで、
美容系サイトにて痩身美容(脂肪吸引など)ついて執筆するフリーライター。
主に得意分野は、がんや免疫療法、経営者インタビュー記事作成など。