全身転移のがんの場合、手術が不可能で治療法はないと思われていますが、決してそうではありません。
早期の段階で治療するにこしたことはありませんが、ステージⅣの状態であっても、治療を続けながら日常生活を送ることはできるのです。
目次
がんの再発・転移とは
再発について
1) 再発とは
初回の外科手術でがんを完全に取り除くことができれば再発することはありません。
しかし、手術で腫瘍を全て切除することができたようにみえても、目に見えない小さながんが残っていて取りきれなかったものが再び現れることがあります。
これを「再発」といいます。治療した場所の近くで発見される場合だけでなく、別の場所で「転移」としてがんが見つかることも含めて再発と呼びます。
実際がんが発見された時には多くの場合で既に目に見えない転移(微少転移)や、または目に見える転移があるといわれています。
再発は決して稀なことではないので、そのため初回の手術後に再発や転移を防ぐ目的で抗がん剤治療(薬物療法)が行われることが多くあります。
また、抗がん剤治療や放射線治療でがんがいったん縮小したにもかかわらず、再び大きくなることや、または別の場所に同じがんが出現することも再発といいます。
血液やリンパのがん、前立腺がんなどの場合には「再燃」という言葉が使われます。
2) 再発の種類
がんが再発した場合、その成り立ちと部位によって以下のように区分され、治療法も異なります。
局所再発:最初のがんと同じ場所あるいはごく近くに現れた状態
領域再発:腫瘍が最初のがん発生場所の近くのリンパ節、または組織で成長した状態
遠隔(全身)再発:最初のがんの発生場所から離れている器官、または組織に転移した状態
転移について
「転移」とは、がん細胞が最初に発生した場所から血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器や器官へ移動し、そこで増殖することです。
1)転移の種類
転移の種類で多い場合を以下にあげます。
リンパ行性(こうせい)転移:リンパ液の流れが集まるリンパ節への転移
血行性転移:肺や肝臓、脳、骨など血液の流れが豊富な場所への転移
播種(はしゅ):がんができた臓器からがん細胞がはがれ落ち、近接する体内の空間である胸腔や腹腔 に散らばるように広がること
2)転移する部位
最初にできたがんの部位を「原発巣」と呼びます。
そこから肺、肝臓、脳、骨などさまざまな部位に転移が起こり得ます。
転移した部位によって、肺転移、肝転移、脳転移、骨転移、腹膜転移(腹膜播種)等といいます。
このような呼び方は、原発から転移したがん病変がその部分に広がっていることを示しています。
例えば、最初に大腸にがんができ、肺に転移した状態を「大腸がんの肺転移」(原発は大腸がんで、肺転移を起こした状態)と呼びます。
3)転移したがんの性質
大腸から肺に転移したがんの場合、大腸がんの細胞と同じ性質を持ちます。
そのため例えば大腸が原発であれば、肺に転移した腫瘍であっても大腸がんに有効的な抗がん剤を使用します。
また初めてがんと診断された場合でも、進行した状態で発見されると既に原発巣から転移した状態のことがあります。
その腫瘍が「原発」か「転移」のどちらか、「転移」の場合「原発」の場所はどこか、再発した部位はどこかを見極めることが、今後の治療方針を決める上で重要になります。
がんの全身転移とはどのような状態か
がんの全身転移と、がんが体のあちこちに転移した状態を指します。
原発巣から転移して増殖した病巣を転移巣といいます。
転移ではなく、同時に数か所の臓器または同じ臓器に複数の原発癌がみつかる場合もあります。
これは多発性原発性腫瘍あるいは多重原発腫瘍と呼ばれます。
また一般的に「末期がん」という際、がんが全身に転移している状態で多く場合でステージⅣと呼ばれる段階です。
がんが全身転移した時の症状について
主な転移先別の症状
がんが全身に転移した場合、転移した部位により様々な症状が起きます。
1)骨への転移
骨への転移は起こりやすく、臓器への転移と異なり生命を脅かすものではありませんが、骨折や麻痺などで生活が困難になる可能性が大きいです。
1.痛み
骨転移の部位により、以下の場所に痛みが現れます。
腰椎 → 腰痛
胸椎 → 背中
大腿骨 → 股関節や太もも
骨盤 → 腰のあたり
上腕骨 → 腕
2.骨折
がんが骨に転移することで骨がもろくなり、体重がかかる部分の骨が弱くなり骨折することがあります。
また少しの刺激で折れてしまう病的骨折や、腰椎・胸椎では圧迫骨折を起こします。
かなり激しい痛みを伴い、大腿骨が骨折すると立っていることもできなくなります。
3.脊髄圧迫による麻痺
がんの脊椎(せきつい)への転移により脊髄が圧迫され、手足のしびれや麻痺が現れることがあります。この場合は緊急に治療をしないと回復しないことがありますので、早めの治療が必要です。
4.高カルシウム血症
転移した骨からカルシウムが溶け出し、血液中のカルシウム濃度が高くなる「高カルシウム血症」になることがあります。
咽の渇きや尿量の増加で脱水症状になりやすくなります。
またお腹が張る、便秘気味になる、ぼーっとする、などの症状も現れます。
治療が遅れると脱水症状が強くなり、腎臓の働きが落ちていきます。
2)脳への転移
がんが脳に転移すると、頭痛やめまい、吐き気などが現れます。
また脳はそれぞれの部位で担っている機能がありますので、どの部位に転移したかによっても症状が異なります。
手足が動かしにくい、言語障害が起きるなどさまざまな障害が起きます。
3)肺への転移
血液は肺に戻りそこから全身へ流れていき、がん細胞も血液を通じて肺を通過するため、肺はがんが転移しやすい臓器です。
他の部位から肺に転移したがんを「転移性肺がん」と呼び、肺がんに似た症状が出やすくなります。
咳が長引き、血痰や、息切れ、呼吸困難などの症状がみられます。
4)腹膜への転移
がんが胃や肝臓などの腹部臓器を覆う薄い膜である「腹膜」に散らばるように広がった状態を、
「腹膜播種」といいます。
腹膜播種が起こると、腹痛や腹部膨満感、全身倦怠感、発熱、腹水がたまりやすくなりお腹が膨れる、といったことがあります。
5)胸膜への転移
「胸膜」は肺を包む膜で、胸膜播種は胸膜にがんが散らばった状態です。
肺がんや転移性肺がんによくみられます。
胸の痛みや咳が多く、胸水がたまってくると呼吸困難を起こすこともあります。
その他の症状
がんが全身に転移した場合の共通の症状として、主に以下のような症状があります。
・食欲不振
・便秘
・疲れやすい
・むくみ
・痰
・頻尿
・吐き気
・体がこわばる
また体の不調だけでなく、心の不調も現れます。
・気持ちが沈む
・孤独感
・眠れない
全身転移のがんに対し行える一般的な治療法について
がんが全身に転移している場合でも、症状は人によって異なりますので治療法も一つではありません。
まずは自分の体の状態とがんの性質を知り、納得できる治療を選択しましょう。
薬物療法(抗がん剤治療)
一般的にがんが他の部位に転移しているステージⅣでは、手術不適応のことが多く、抗がん剤を用いた薬物療法が選択されます。
手術や放射線治療は局所的な治療法ですが、薬物療法は「全身療法」ともいわれており、全身に散らばった広範囲のがん細胞に働きかけられメリットがあります。
そのため、複数箇所に転移した場合でも効果が期待できます。
現在は、新しいタイプの抗がん剤である「分子標的薬」や「ホルモン治療薬」が開発され、がんの種類によって使用されます。
放射線療法
放射線治療は局所的な治療法ですが、転移したがんであっても限定した部位に作用させることを目的として放射線治療が行われることがあります。
また、がんの完全な消失を目的としていない、がんの症状を和らげるため の「緩和照射」として選択されることがあります。
外科手術
がんが体のあちこちに転移している場合、基本的に手術をすることはできないと考えられています。
しかし原発巣のがんを取り除くことができれば、転移性がんであっても長く生存できる可能性が大きくなるので、手術が選択されることもあります。
緩和ケア
がんが全身に転移し末期の状態になると、痛みやしびれ、咳、呼吸困難といったさまざまなつらい症状が出るようになります。
緩和ケアは、そのような症状を緩和させる目的で行なう治療です。
腹水や胸水がたまった場合はそれを取り除く抜く処置を行ないます。
痛みに対しては、モルヒネなどの鎮痛剤を投与し、咳がひどい場合は咳止めの薬を用います。
「放射線療法」も腫瘍を小さくし、腫瘍による圧迫や痛みなどを和らげる緩和ケアの一部です。
補完代替療法について
一般的に一か所でもがんの転移がみつかった場合、治癒は難しいとされています。
全身へ転移している場合は原則として手術を行うことができず、抗がん剤治療が中心となります。
そのため、外科手術、抗がん剤治療、放射線療法の標準治療の代わりに補完代替療法を選択する人も多いです。
補完代替療法とは
補完代替療法は、健康食品やサプリメントの他に鍼、マッサージ療法、食事療法、温熱療法、運動療法、心理療法など、がんの進行を遅らせ、身体の自然治癒力を高めることを目的とした治療法です。
残念ながら、これらの療法はがんの進行を抑える科学的効果が実証されていません。
ただし患者さんによっては苦痛が軽減され日常生活も楽になると感じる人もいます。
また海外では、標準治療と代替医療を積極的に併用している病院もあります。
免疫細胞療法という選択肢について
免疫細胞療法とは、自分の細胞を用いてがんを攻撃するための抗原を作る治療法です。
通常の補完代替療法とは異なり、免疫力を上げて自然治癒を目指すだけでなく、積極的にがんに対し治療を行います。
がんが多臓器に転移した場合、手術はおろか治療法自体がないと医師に告げられることがあります。
しかし、ステージⅣでがんが全身に転移した場合でも、免疫細胞療法と抗がん剤治療を併用し、原発巣を小さくした後で手術可能になることがあります。
また、がんが進行すると痛みや倦怠感、食欲不振に悩まされることも増えてきますが、免疫細胞療法で免疫力が上がることによりこれまで通りに近い生活を送っている人もいます。
全身転移のがんであっても、決してあきらめることなく可能な治療法を模索することが大切です。
まとめ
現代の医療は進化しており、人間がもつ免疫力の力もはかり知れないものがあります。
がんと共存しながら日常生活を送ることは可能であり、QOL(日常生活の質)を保つ生活ができれば延命にもつながるのです。
出展:
国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/hikkei/saihatsu/chapter1/index.html
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/relapse.html
東京慈恵会医科大学付属 柏病院
http://www.jikei.ac.jp/hospital/kashiwa/sinryo/40_02w2.html#case02
日本乳癌学会
jbcs.gr.jp/guidline/p2016/guidline/g6/q43/homecare-sapporo.com/seminar/第13回%e3%80%80「終末期がん患者さんの症状」/

医療ライター。健康・医療分野を中心に執筆するライターです。
特に医療記事については、担当者へのインタビューや文献から正確な情報を収集し、且つ一般の方にとってわかりやすい文章表現を心がけています。