腎臓がんの予後は、診断された際がんがどの程度進行しているかによります。小さいうちに発見されれば再発する可能性は低いものの、既に大きくなっていたり他に転移している場合は5年生存率も大きく下がるといわれています。
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目次
腎臓の働きについて
腎臓は後腹膜といわれるお腹の後ろにあり、腰の高さに位置しています。そら豆のような形で、長さは10~12cm、幅が5~6cm、厚さは4~5cmくらいの大きさです。
腎臓の主な働きは、血液から体に不要な成分をろ過して尿を作ることです。
尿は腎臓内の腎実質(皮質と髄質)で作られ、腎盂に集められた後、尿管を通り膀胱へと送られます。
その他に、血圧のコントロールや血液内のカルシウムの調節もしています。
腎臓は全体として体内環境の調整という非常に大切な働きを持っています。
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腎臓がんについて。腎臓がんはどのように発見される?
腎細胞がんとは
腎臓にはいろいろな腫瘍が発生します。良性の腫瘍と悪性の腫瘍=がんがあります。
最も多いのは良性腫瘍の腎嚢胞で、50歳以上の人では半数以上にみられます。
一般的に「腎臓がん」や「腎がん」は「腎細胞がん」を指し、腎臓にできるがんの約90%を占めています。
腎細胞がんは腎臓の尿を作る部分である腎実質にできた悪性腫瘍のことです。腎実質には他に血管筋脂肪腫という良性腫瘍が発生することもあります。
腎盂という尿が集まる部位にできた悪性腫瘍は「腎盂がん」と呼ばれ、腎細胞がんとは異なった性質のがんのため区別されます。
腎細胞がんはどのようにみつかるか
最近、超音波検査やCT検査などが普及したことで、健康診断や人間ドック、他の病気で検査を受けた際に偶然みつかる小さな腎臓がんが増加しています。
健康診断の項目には腹部エコー検査(超音波検査)があり、腎臓もチェックされるためです。
そのため、現在ではほとんどの腎臓がんの患者さんのうち偶然みつかるケースがほとんどです。
健康診断や人間ドックを受けることは、腎細胞がんを発見することに有効であるといえます。
一方、腎細胞がんの腫瘍マーカーは存在しないため、血液検査でみつけることはできません。
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腎細胞がんの症状
小さいうちに発見される初期の腎細胞がんに特徴的な症状はありません。
主な腎細胞がんの症状は、がんが進んだ際の症状、腎細胞がん以外でもみられる悪性腫瘍の症状、腎細胞がんが転移した先の症状に分かれます。
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1 ) 症状が進んだ際の症状
腎細胞がんが進み腫瘍が大きくなることで起こる症状は主に以下のものがあります。
・腹部のしこりや腫れ(腹部腫瘤)
・背中や腰の痛み
・血尿
・足のむくみ
痛みの症状は腫瘍が周囲組織に浸潤することで起きます。
血尿は腫瘍からの出血が尿に出ることで起きますが、痛みの症状を伴わないことが多いです。
血尿や足のむくみは、腎細胞がん以外でも膀胱炎や尿路結石、腎臓病でもみられます。
2) 腎細胞がん以外でもみられる悪性疾患の症状
・体重減少
・全身倦怠感
・微熱が続く
・貧血
・食欲不振
・吐き気
など
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3) がんが転移した先の臓器での症状
・肺への転移:咳、痰、呼吸困難
・骨への転移:体の痛み、骨折、高カルシウム血症
・肝臓への転移:黄疸症状、腹水がたまる、腹部膨満感
・脳への転移:頭痛やけいれん、めまい
など
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腎細胞がんの原因について
どのような人がなりやすいか
腎細胞がんは、私たちアジア人に比べ欧米人の方が発症率は高いですが、日本でも増加傾向にあります。
日本では人口10万人あたり10人程度が発症し、男性で約7人、女性で3人程度と女性よりも男性の発症率が2~3倍です。
一般に腎細胞がんは男女ともに若年者では稀で、加齢に伴い発生頻度が高まっていきます。
50歳以上に多く、発症のピークは70~75歳といわれていま。
発症する原因
腎細胞がんが発症する危険因子として、肥満、喫煙、高血圧、乳製品の過剰摂取などが指摘されています。
通常、腎細胞がんは遺伝しませんが、一部にはフォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL病)原因のこともあります。これは遺伝性腎細胞がんの代表的疾患であり、VHL病は生まれつきがん抑制遺伝子であるVHL遺伝子に異常がある疾患のことです。
VHL病の血縁者の4割で腎細胞がんが発生すること、及び両方の腎臓に発生することが多いといわれています。
腎細胞がんが発症しやすい年齢は55~80歳ですが、VHL病の人で腎細胞がんが発見される年齢は平均で38歳と若年であることが特徴です。
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腎細胞がんのテージ(病期)について
がんの進行の程度は、ステージ(病期)で分類されます。
腎細胞がんのステージは、がんの進展の程度を示すTNM分類に基づき決められています。
T:原発腫瘍(primary Tumor)
N:所属リンパ節(regional lymph Nodes)
Mは遠隔転移(distant Metastasis)
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1) ステージⅠ
T1a:腎細胞がんの直径が4cm以下で腎臓にとどまっている
T1b:腎細胞がんの直径が4cmを超えるが7cm以下で腎臓にとどまっている
N0:所属リンパ節への転移なし
M0:他の臓器への転移なし
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2) ステージⅡ
T2a:腎細胞がんの直径が7cmを超えるが10cm以下で腎臓にとどまっている
T2b:腎細胞がんの直径が10cmを超えるが腎臓にとどまっている
N0:所属リンパ節への転移なし
M0:他の臓器への転移なし
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3) ステージⅢ
T3a:腎細胞がんが腎静脈または周囲の脂肪組織まで及んでいるが、ゲロタ筋膜(腎臓を覆っている一番外側の膜)を超えない。
T3b:腎細胞がんが横隔膜より下の大静脈内に広がっている。
T3c:腎細胞がんが横隔膜の上の大静脈に広がる、または大静脈壁まで及んでいる。
N0 / N1:所属リンパ節への転移なしまたは1個転移あり
M0:他の臓器への転移なし
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4) ステージⅣ
T4:腎細胞がんがゲロタ筋膜を超えて広がっている。同じ側の副腎まで及んでいる場合を含む。
N0 / N1:所属リンパ節への転移なしまたは1個転移あり
M0:他の臓器への転移なし
又は
N2:所属リンパ節への転移が2個以上ある
M1:他の臓器への転移あり
所属リンパ節への転移が2個以上ある場合、または他の臓器への転移がある場合は、T(原発腫瘍)の状態に関わらずステージⅣと診断されます。
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腎細胞がんの治療法について
がんの治療方法は、がんのステージや大きさ、広がり具合、患者さんの体力やコンディション、年齢、患者さんの希望なども含め検討決定されます。
外科治療
がんが腎臓内にとどまっている場合の標準治療は外科治療です。手術の方法は、開腹手術と腹腔鏡手術の2つの方法があります。
腹腔鏡手術はお腹に小さな穴を開け、カメラを付けた内視鏡を患部まで挿入して行う手術です。開腹による手術と比べると、傷が小さく出血も少ないため、早く退院できます。この手術は比較的早期のがんに実施されます。がんが周囲の組織に及んでいたり、リンパ節に転移していたりする場合は、一般的には開腹手術で腎臓を広範に摘出します。
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1) 腎部分切除術(腎機能温存手術)
腫瘍箇所の腎臓を部分的に切除する方法です。最近は偶然発見される小さい腎細胞がんが多いため、腎部分切除が選択されることが多い術式です。
残った腎臓の機能を温存でき、長期的視点でみた場合、腎機能の低下とそれに伴う合併症への影響を小さくできるという利点があります。
主に4cm以下の小さながんの場合に選択されますが、がんの位置などによっては選択できない場合があります。
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2) 腎摘除術(根治的腎摘除術)
腎臓は2つあるため1つを切除しても体に与える影響が少ないということから、腫瘍のある側の腎臓をすべて取り除く術式です。すでに腎臓が1つしかない場合は腎部分切除術が行われます。
腎臓が2つあっても、がんがない方の腎臓の機能が悪く、がんのある方の腎臓を摘出してしまうと腎不全になってしまう恐れがあるなども、部分切除が行われることがあります。
腎摘除術では、がんの位置や副腎への転移の有無をふまえ、腎臓の上にある副腎や周囲の脂肪織を一緒に切除することもあります。
がんの状況によっては、腎臓意外の周囲の臓器や、血管内にあるがんを切除することもあります。
薬物療法
がんが腎臓だけにとどまらず、病巣を全て取りきることができない場合や、がんが再発、転移した場合、また進行性のがんなどに薬物療法が選択されることがあります。
薬物療法には少なからず副作用が起きます。個人差は大きいですが、一般的には発熱や倦怠感、食欲不振、嘔吐、頭痛、長期的には脱毛、白血球減少などがあります。
治療を受ける前に医師から十分な説明を受けましょう。
1 ) 分子標的治療
比較的新しい薬剤として、腎細胞がんが成長する経路の特定部位をおさえる「分子標的治療薬」と呼ばれる薬剤も選択肢の一つです。
腎臓にあるがんや他の臓器に転移したがんを、大きさを小さくする目的で手術前に分子標的治療薬を用いることもあります。
2) 免疫抑制阻害療法(免疫チェックポイント阻害剤)
進行性の腎細胞がんの場合、サイトカイン療法や、免疫チェックポイント阻害剤を使用する免疫療法が選択されることがあります。
サイトカイン療法はインターフェロンαやインターロイキン-2の薬剤が用います。
インターフェロンに加え、がんに栄養をおくる血管の形成を抑える作用をもつ薬剤を用いる「I-CCA治療」を併用することもあります。
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監視療法
早期のがんでがんが腎臓内にとどまっている場合、手術をせずにCTやMRI、超音波検査の画像検査を定期的に行い、がんや体の状態などの経過を観察することです。
特に高齢の人や、他の病気があるため手術の危険性が高い手術患者さんに選択されます。
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腎細胞がんの予後について
定期検診と健康診断を欠かさずに
腎細胞がんは初期段階でみつかり治療を開始することができれば比較的予後は良いといえます。
にがんは通常5年再発しなければ治ったとみなされますが、腎細胞がんの場合は治療後10年以上経過後の間再発の可能性があるといわれています。
そのため、治療後も定期的な検査を受ける必要であり、定期通院が終わったあとも健康診断や人間ドックなどを受けましょう。
免疫療法を取り入れて再発を防ぐ
早期のがんであっても、その周囲に目にみえない病巣が散らばっている危険性はあるため、再発や転移の可能性がないとはいえません。
退院後に暴飲暴食や、危険因子である喫煙、ストレスのある生活に戻れば再発の危険性は高くなります。一般的に再発がんの治療は難しいとされています。
免疫療法を退院後の治療に取り入れることで、再発や転移を予防に努めましょう。
自身の免疫力を高めることにより、手術後の経過を良くすることも期待できます。
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まとめ
健康診断や人間ドッグでの検査が普及し、腎臓がんは小さいうちに発見されるケースが多くなりました。がんは早期発見・早期治療が重要ですので、他のがんよりも治癒が期待できるがんといえます。
初期がんの場合の5年生存率も比較的高いですが、10年以上後に再発するケースもあります。退院後の生活に気をつけ、特に中高年の男性は治療後も定期検査、健康診断が必要です。
出展:
東京医科歯科大学大学院 腎泌尿外科学教室
http://www.tmd.ac.jp/med/uro/practice/disease/renal_tumor.html
国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/cancer/renal_cell/index.html
がん研有明病院
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/jingan/report/201309/532527_2.html
愛知県がんセンター中央病院
https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/12knowledge/iroirona_gan/15jinsaibo.html
がんナビ
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/jingan/report/201309/532527_2.html
https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/12knowledge/iroirona_gan/15jinsaibo.htm

医療ライター。健康・医療分野を中心に執筆するライターです。
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