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目次
膀胱がんとはどんな病気か
膀胱がんは膀胱の組織内に悪性腫瘍ができる病気です。膀胱の役割について、また膀胱がんの具体的な症状について説明します。
膀胱や膀胱の役割について
膀胱は下腹部、骨盤内にある空洞上の臓器で風船のような形をしています。
膀胱は尿が漏れ出ないよう一時的にためる働き(蓄尿機能)と、尿がある程度溜まると尿意を感じ、尿を排出する働き(排尿機能)があります。
尿は腎臓で血液が浄化された後に残った液体で、左右の腎臓から尿管を通して膀胱に送られ尿道を通じて体外に排泄されます。
膀胱の壁は筋肉組織でできているため、尿を貯留している間は膨張し、排出した後に収縮します。
膀胱がんの発生場所による分類
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1) 尿路上皮がん
膀胱の内側は尿路上皮という細胞でおおわれており、機能に応じて伸びたり縮んだり形が変化する粘膜です。膀胱がんのほとんどは、この尿路上皮の細胞ががん化したものです。
膀胱を含め、腎盂、尿管、膀胱など尿の通り道にがんができるものを尿路上皮がんと呼び、膀胱がんの90%以上を占めます。
筋層非浸潤性がんと筋層浸潤性がんに分類されますが、筋層非浸潤性がんの方が多く、予後は良いといわれています。
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2) 扁平上皮がん
膀胱の他、口の中、舌、咽、食道、気管、肺、肛門、子宮頸部など、内部が空洞になっている臓器の内側の粘膜組織を扁平上皮といいます。
扁平上皮がんは膀胱がん全体の数%で、長期間に渡る感染症や慢性的な粘膜刺激が原因と考えられています。
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3) 腺がん
膀胱の他、胃、腸、子宮体部、肺、乳房、卵巣、前立腺、肝臓、膵臓、胆のうなどには腺組織とよばれる上皮組織があります。
たいへん稀ながんで、腺細胞中で長期間炎症が続き、過敏性になっている状態で発生するとされています。
膀胱癌の進行度
前述した尿路上皮の下には粘膜下層、筋肉層、脂肪がありますが、膀胱がんは画像診断などの確定診断に基づきその進行度は以下の3つに大別されます。
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1) 筋層非浸潤性がん
膀胱筋層まで浸潤(広がっていない)がんをいいます。筋層非浸潤性がんには表在性がんと上皮内がんがあります。
1. 表在性がん
表在性がんの見た目が野菜のカリフラワーのように突き出ているので、「乳頭状がん」と呼ばれることもあります。
根の部分は浅く、悪性度が低く転移を起こすことがほとんどないという傾向がありますが、放置しておくと進行して浸潤がんや転移を起こす危険性のある「ハイリスク筋層非浸潤性がん」と呼ばれるタイプのものもあります。
2. 上皮内がん
膀胱の内腔に突出せずに、粘膜のみががん化した状態です。粘膜は上皮とも呼ばれ、上皮内のがんという意味で上皮内がんと呼ばれています。
2) 筋層浸潤性がん
膀胱の筋層に浸潤したがんで、見た目はがんの表面が平滑に盛り上がっていたり、平坦にひろがっているものなど様々です。
この筋層浸潤性がんの場合、がんが膀胱壁を貫いて壁外の組織へ浸潤したり、リンパ節や肺や骨に転移しやすく、悪性度も高いことが多いという特徴があります。
さらに筋層浸潤性がんは多く予後不良のことが多いとされています。
3) 転移性がん
原発巣の膀胱がんが他臓器に転移した状態です。膀胱がんが転移しやすい臓器として、リンパ節、肺、骨、肝臓などがあります。
膀胱にできたがんの発生場所により、治療法が異なります。
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膀胱がんの症状について。初期症状は?
膀胱がんはがんの中でも初期症状に気づきやすく、特に多くの場合で血尿がみられます。がんが進行してリンパ節や遠隔臓器にまで転移すると、転移した部位により痛みなどさまざまな症状がでるようになります。
尿の色がいつもと明らかに異なる時は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
膀胱がんの初期症状
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1) 肉眼的血尿
膀胱がんの初期症状で最も多い症状が、目で見て尿が血の色だとわかる肉眼的血尿です。
時に血のかたまりが出る場合もあります。
しかし膀胱がんの場合、一般的に血尿だけで痛みをまったく感じない無症候性で、血尿自体が数日で収まってしまうことが多いです。また血尿があるからといって、必ずしも膀胱がんであるとは限りません。
そのため「一時的なもの」と安心し、受診せずに放置してしまうことがあります。
数ヶ月後に再び血尿がみられ、受診した頃にはだいぶ進行しているケースもありますので症状に注意が必要です。
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2 ) 排尿障害
上皮内がんや浸潤性がんの場合、一般的に血尿とともに頻尿や排尿時の痛み、残尿感などの排尿障害がみられます。このような症状の場合、膀胱がんに膀胱炎を合併していることが多いです。
そのため「ずっと膀胱炎の治療をしていたけれど、実は膀胱がんだった」というケースがあります。
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膀胱がんの進行した症状
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1 ) 下腹部の痛み
がんが進行すると、下腹部の痛みなど膀胱刺激症状が現れることがあります。
頻尿や尿意切迫感、排尿痛もより顕著に起きるようになり、病変の場所が膀胱の出口に近いとより排尿時に疼痛が生じます。男性の場合、陰茎の先端部の痛みが現れます。
膀胱炎にも同様の症状がありますが、抗生剤を服用してもなかなか治らないことが特徴です。
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2) 背面痛
腫瘍が広がり尿管口をふさぐようになると、腎臓から尿が送られなくなることがあります。そのため尿の流れが妨げられ腎盂や尿管が拡張する「水腎症」になります。
腎症になると、背中が圧迫され背面に鈍痛を感じやすくなります。
尿管結石でも同様の症状があることがあります。
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膀胱がんが発症しやすい人は?原因やリスクについて
膀胱がんが発生しやすい人
膀胱がんの発症率は10万人に10人程度ですが、男性は女性に比べ罹患率は4倍といわれています。
年齢別では、男女とも60歳以降で増加し、40歳未満の若年では低い傾向にあります。
75歳代から79歳の高齢者では、10万人あたり男性が年間50人、女性が20人程度発症しています。
膀胱がんの一番の原因は
膀胱がんの要因は主に以下のものがあります。
・たばこ(喫煙)
・特定の薬物(精神安定剤・解熱鎮痛薬・抗がん剤など)
・化学物質(芳香族アミンなどの染料)
・膀胱結石、腎臓結石の病歴
・膀胱感染症の病歴
など
膀胱がんを発症する最大のリスクは喫煙です。たばこを吸う人は吸わない人の約2~4倍膀胱がんになりやすいといわれています。
膀胱がんの発症率は、男性の50%以上、女性の約30%は喫煙が原因と試算されています。
また、以前日本では塗装業者や印刷業者の従業員に膀胱がんに罹患する人が多いという症例が報告されており、染料に含まれる化学物質が要因と問題になったことがありました。
この化学物質の製造、使用は禁止されましたが、現在でも化学物質に触れる機会が多い職業の人は膀胱がんの発症率が高いという傾向があります。
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膀胱がんの外科治療
膀胱がんの治療は、筋層まで腫瘍が到達していない筋層非浸潤性膀胱がん(表在性膀胱癌)の場合と、筋層浸潤性膀胱がんの場合で治療方針が異なってきます。
膀胱がんの外科治療として大きく分けて以下の方法があります。
TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)
膀胱鏡とよばれる専用の細くライトのついたチューブを尿道から膀胱内に挿入し、電気メスで切除する方法です。
筋層非浸潤性がんの場合は病態によってはTURBTでがんを完全に切除できることがあります。
表在性がんは膀胱内に再発しやすいという特徴があり、再発のリスクが高いと判断された場合、予防のために膀胱内注入療法が実施されることがあります。
手術後、膀胱内にカテーテルをつないだままにし、生理食塩水で溶解した抗がん剤を
注入します。
組織検査の結果、ハイリスク筋層非浸潤性膀胱がんと判断された場合には、再度TURBT(2nd TUR)が行われることがあります。
根治的膀胱全摘術+尿路変向術
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1 ) 根治的膀胱全摘術
膀胱およびがんを含むすべてのリンパ節、隣接する器官を摘出する手術です。
腫瘍が膀胱の筋肉層に浸潤している筋層浸潤性がんと、筋層非浸潤性がんで膀胱の大部分に浸潤している場合、最も有効な治療法とされています。
全身麻酔をし、下腹部に切開を入れ、尿管の切断をした後で膀胱の摘出を行います。
男性の場合は前立腺と精嚢(せいのう)を摘出し、状態によっては尿道も摘出することがあります。
女性では子宮と腟壁の一部、尿道を摘出し、骨盤内のリンパ節の摘出(リンパ節郭清)を併せて行います。
腫瘍が膀胱の外側まで広がり完全に摘出することができない場合、泌尿器系の症状を緩和するために膀胱のみを摘出する手術が行われます。
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2) 尿路変向(変更)術
膀胱を摘出した後、腎臓でつくられた尿を溜めたり、排出するための新たな経路を体内に作る手術を行います。
現在、小腸または大腸の一部を切り離し、左右の尿管をつなぎ腸の先を皮膚の外に出す「回腸(結腸)導管造設術」が多く取られています。
膀胱部分切除術
膀胱の一部を摘出する手術です。
腫瘍が膀胱壁まで浸潤しているものの、膀胱の1つの領域のみに限られている場合に対して行われることがあります。
膀胱のほとんどが無傷で残ることから、手術後、普通に排尿することが可能です。
手術後も免疫力を高め再発防止に努める
初期段階でも油断は禁物
膀胱がんは比較的発見しやすく、そのほとんどが悪性度の低い尿路上皮に発生する筋層非浸潤性がんで、予後は良いといわれています。
中には再発しやすいタイプのがんのこともあります。
早期の段階で腫瘍を完全に取り切ることができたとしても、目に見えない病巣が周囲に散らばっている可能性があります。
退院後、暴飲暴食やストレスの多い日常生活に戻ると、生活の乱れが免疫力の低下につながり再発の危険性が高くなります。
規則正しい生活とバランスの取れた食事は、闘病する人にとってとても大切です。
免疫療法を活用しさらに再発防止
体内の免疫力を高める免疫療法を手術の前後に取り入れることで、術後の経過を良くすることができます。
手術後に抗がん剤治療を開始する場合でも、吐き気や食欲不振などの副作用を減らし、さらに再発予防にも効果が期待できます。
基本的に再発がんに対する治療は困難とされていますので、術後いかに再発予防に努めるかが非常に重要になります。
まとめ
膀胱がんは他のがんに比べると罹患率が低い病気ですが、一般検診でみつかりにくい病気です。
初期段階で発見され治療ができれば根治できる可能性も高いので、特に喫煙歴がある中高年の男性は初期症状を見逃さないようにしてください。
また、手術で腫瘍を切除できた場合でも、退院後の生活や食事に注意しましょう。
出展:
国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/index.html
一般財団法人 国際医学情報センター
https://www.imic.or.jp/library/cancer/019_bladder.html
日本癌治療学会 がん診療ガイドライン
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/17.html
がん研有明病院
http://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/bladder.html
日本大学医学部 泌尿器科
http://www.med.nihon-u.ac.jp/~urology/static_main/disease/disease_003.html
東京医科歯科大学大学院
http://www.tmd.ac.jp/med/uro/practice/disease/bt.html#q3
徳島大学病院 がん診療連携センター
www.tokudai-ganrenkei.jp/standard.html?did=urinology1

医療ライター。健康・医療分野を中心に執筆するライターです。
特に医療記事については、担当者へのインタビューや文献から正確な情報を収集し、且つ一般の方にとってわかりやすい文章表現を心がけています。